こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クロユリ団地

otello2013-03-15

クロユリ団地

監督 中田秀夫
出演 前田敦子/成宮寛貴
ナンバー 61
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“霊は場所に憑くのではなく人に憑く”。霊能者が言う通り、無念の思いを残して命を落とした者は、生きている者の後悔や良心の呵責を巧みに見抜き付け込もうとする。それは甘美な死へのいざない、とり憑かれた者は麻薬中毒患者のように精神を蝕みずるずるとあちらの世界に引き込まれていく。映画は古い団地で新生活を始めたヒロインが体験する恐怖を通じ、悪意を持った霊の怨念を描く。いや、むしろ霊自身は己の欲望を悪意などとは自覚しておらず、不慮の死を遂げた自分の当然の要求だと思っている。時間が止まってしまった死者が未来に向けて生き続ける者に対して、嫉妬し、怒り、憎しみすら抱く姿は、成仏できない孤独に脅えているようだ。

両親と弟とともに団地に転居してきた明日香は砂場で遊ぶ子供・ミノルと仲良くなる。ある日、隣の老人が死んでいるのを発見した明日香は、彼を救えなかった罪悪感に苛まれ、遺品整理屋の笹原に相談する。

引っ越し初日から隣人が出す不気味な騒音に悩まされる明日香。それでも家族そろったテーブルで食べる朝食風景は幸せそのもので、彼女の不満が取るに足らないことに思えてくる。ところが、毎朝繰り返される同じ会話に、明日香の目にしている光景が歪みだす。老人のせいなのかミノルのせいなのか、そのあたり明日香の“日常が崩壊していく過程”が皮膚感覚で再現され、現実と幻覚の境目が分からなくなった彼女の頭の中を饒舌に物語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、明日香の過去が明らかになり、笹原のアドバイスで霊能者に悪霊祓いをしてもらう。絶対に死者を部屋に招き入れてはならない、言葉に耳を貸してはならない。だが、愛する者に先立たれた明日香の心の傷は決して癒えず、苦悩が妄想となって暴走する。過疎化するニュータウン、独居老人や孤独死といった、近所づきあいや地域コミュニティが希薄になった21世紀の社会問題がホラーの中にもヴィヴィッドに浮き彫りにされていた。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓