こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

甘い鞭

otello2013-07-05

甘い鞭

監督 石井隆
出演 壇蜜/間宮夕貴/中野剛/屋敷紘子/中山峻/伊藤洋三郎/中島ひろ子/竹中直人
ナンバー 165
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

四つん這いにされ、緊縛され、脚を広げたあられもない格好を強制された上で鞭打たれる女。肉体を痛めつけられることで、彼女はもう一度あの甘美な陶酔を味わいたいと願う。レイプされる恐怖でもない、服従を強いられた自我の放棄でもない、苦痛を超越した忘我でもない、そんな忌まわしいはずの過去が彼女の胸のなかでいつしか生きる目的になっている。物語は、高校時代に凄惨な事件の被害者になった経験のある女医が、凌辱の果てにたどり着いた禁断の境地を模索する姿を描く。昼間は白衣、夜は黒い下着、聖女と娼婦を使い分ける壇蜜の熟した果実のような肢体がなまめかしく悶絶する映像は、世紀末的な退廃すら感じさせる。

産婦人科医の奈緒子は、勤務後はM嬢としてSMクラブで男に体を提供している。彼女は17歳の時、近所の変質者に1カ月にわたり拉致監禁されたときに覚えた“甘い味”の快感を忘れられず、以来それがなんだったのか探し求めていた。

17歳の奈緒子は男に縛られベルトで打たれる。32歳の奈緒子は派手な音だけで痛みを伴わないプレー用の鞭に尻をさらす。逃げ場がなく命の危機と紙一重で絶望と闘っていた17歳の体験はSMクラブで再現きるものではなく、今の奈緒子は不満が募るばかり。彼女の体と心に消えない傷となって刻まれているのは、あの一瞬の愉悦。それは事件の記憶以上に彼女の人生に影響を与え続けている。映画は、奈緒子の肉体と精神を極限にまで追い詰めた時に現れる至高の感覚をひたすら追い続け、その過程で露わになる人間の本質を赤裸々に抉り出していく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自力で監禁部屋から脱出してきた奈緒子は、実は監禁犯を殺していた。もちろん被害者として扱われ未成年であるがゆえにプライバシーも保護されている。だが、一度知ってしまった、人間の腹をナイフで刺す感覚、決してMなどではなかった、奈緒子はSの資質を目覚めさせたかったのだ。彼女が望む死と隣り合わせの快楽はあまりにも危険だが、このうえなく耽美でもあった。

オススメ度 ★★★

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