こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

私が、生きる肌

otello2012-05-30

私が、生きる肌 La piel que habito

オススメ度 ★★★*
監督 ペドロ・アルモドバル
出演 アントニオ・バンデラス/エレナ・アナヤ/マリサ・パレデス
ナンバー 132
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

憎しみは時ともに醸成され、歪んだ愛へと昇華していく。殺すだけでは物足りない、もっと、永遠に続く恐怖と苦痛を与えてやりたい。その怨念は男の探究心にも火を付け、倫理に阻まれて成しえなかった実験を可能にしていく。映画は全身整形手術を施された女と執刀した医師の関係を軸に、絶望の果てに辿り着いた狂気と死を描く。冷たく燃え上がる炎と美しく変身していく我が身への複雑な思い、お互いに対する怒りからいつしか生まれた奇妙な相互依存、そしてそれらが日常となってしまった異常。神の領域を侵そうとする男の傲慢と運命を弄ばれた人間の哀しみ、善悪の彼我を越えた彼らの所業に背筋が震えた。

人工皮膚の開発を進める整形外科医・ロベルは、自宅にベラという美女を監禁して彼女の肌に手を加えている。ある日、訪問してきたチンピラにベラはレイプされるが、ロベルはチンピラを射殺する。

ロベルには、交通事故で大やけどを負った妻を助けてやれず自死に追いやった上に、一人娘までレイプされ自ら命を絶った過去に胸を痛めている。そのあたりのロベルの心の闇は、抑制された感情と乾いたトーンでスケッチされ、苦悩を抱えるマッドサイエンティストになっていく姿を見つめるカメラはあくまで彼の内面に踏み込もうとはしない。ただ残酷でスマートな手口が彼の恨みと喪失感を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ベラは決して施術を望んでいるのではなく、ロベルの娘の復讐と亡き妻への贖罪のための生贄だったことが明らかになっていく。しかもロベルのカン違いによる過剰な報復。もはやロベルの行為はいかなる理由においても正当化されず、ベラは被害者でしかない。だが、ロベルは生前の妻そっくりの顔にベラを整形し、肉体も改造し、やがて彼女を亡き妻の代わりとして愛し始めてしまう。一方で、失ったアイデンティティと図らずも与えられた美貌にベラの気持ちは揺れる。この、悲しい喜劇としか言いようがない状況は、犯した罪に見合った罰としての死をもってしか終わりえないのだ。

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