麦子さんと
監督 吉田恵輔
出演 堀北真希/松田龍平/余貴美子/麻生祐未/ガダルカナル・タカ/ふせえり/温水洋一
ナンバー 306
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
母と名乗る女が突然日常に闖入してくる。驚きと“他人”と関わる面倒くささ、何より母親らしいことをかいがいしくしてくれるのが気に食わない。別に恨んでいるわけではない、どう接してよいかわからないだけ。映画は、そんな娘がわだかまりを解く間もなく母に死なれてしまい、母の若き日を知るうちに彼女の気持ちに気づいていく過程を描く。人は良いが図々しい、母の故郷の人々、彼らに思い出を披露され、彼女の叶わなかった夢に思いを馳せるとともに、ヒロインの心の棘が取れていく。そしてほんの短い間だったけれど母親の存在を実感させてくれた彼女に感謝を抱いていく姿は、愛の素晴らしさに満ちていた。
兄と生活する麦子のアパートにずっと音信不通だった母・彩子が押しかけ、一緒に暮らす羽目になる。だが、彩子ほどなく死亡、麦子は四十九日の納骨で彩子が育った小さな町に向かう。
兄がアパートを出て彩子と2人きりになった麦子は、うるさい目覚まし時計を鳴らし漫画を捨てた彩子に腹立たしさを隠せない。それでも、いくらきつい言葉を投げつけても彩子は聞き流し、掃除や食事の用意をし、彩子が揚げたトンカツを無理やり食べようとする。それは彩子の贖罪なのだが、麦子にはその態度が押しつけがましい。経済的事情からいないと困るが毎日顔を合わせるのはウザいというジレンマに戸惑う麦子と、明るさを絶やさず笑顔で応える彩子。母娘として過ごした記憶がない2人の微妙な距離感がもどかしくもリアルだった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
小さな町の人々は、若いころの彩子に瓜二つの麦子に並々ならぬ関心を寄せる。彩子はこの地では誰もが認めるアイドル、麦子は彩子にまつわる様々なエピソードを聞かされ、彩子ともっと話をしておけばよかったと後悔し始める。 赤い目覚まし時計で“産んでくれてありがとう”と表現するカットが大いなる余韻を残す作品だった。
オススメ度 ★★★