こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

はちどり

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父は権威主義者で母は口うるさい。姉は夜遊びに忙しく兄は暴力をふるう。学校の担任は学歴偏重。誰も私のことなんか考えていない。誰も私の話を聞いてくれない。そんな彼女が出会った塾の講師はちょっと変わり者。映画は、高層アパートに住む中学二年の女子生徒の日常をスケッチする。成績はあまりよくない。クラスメイトより塾で知り合った他校の生徒とつるむ方が多い。そして、たくさんの知人がいても心がわかるのは何人いるのかという塾の新しい先生の問いに、彼女は自分を見つめなおす。自由化・民主化で急速に経済発展し、格差が広がりはじめた1990年代のソウル。早くも競争社会からふるい落とされた少女の現実に対する無力感をカメラは丁寧に掬い上げ、長まわしを多用した映像は彼女の感情の繊細な襞までとらえようとする。

放課後に通っている漢文塾で新任のヨンジ先生の言葉に胸を衝かれたウニは、彼女の授業を楽しみにするようになる。ところが、耳の後ろにしこりが見つかり、除去手術を受ける。

ヨンジはエリート大学に在籍しながらも休学中で、何か訳ありの様子。人生を達観しているのか、ウニの悩みに真剣に耳を傾け適切なアドバイスをくれる。その間。家族との葛藤、ボーイフレンドや後輩女子とのひととき、塾の友人との気の置けないおしゃべりなど、ウニにとっての大切な時間が流れていく。喜怒哀楽を大げさに示すわけではない。むしろ表情が乏しいと思えるウニは心に浮かんだ思いをなかなか口にできないのだろう。そのもどかしさを呑み込んで我慢する姿が健気で痛ましい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

手術が無事終わったあとユニはヨンジ会いに行くが、もう彼女は塾をやめている。その後ユニのもとに届いたヨンジからのプレゼント。やがて起こった大惨事。もっと自信を持て、もっと己を愛せ。ヨンジからのメッセージをウニは理解できただろうか。抑制された演出と平板な長まわしは時に退屈を通り越して苛立ちさえ覚える。だが、そのモヤモヤした気持ちこそがウニが普段から抱いている生きづらさなのだ。

監督  キム・ボラ
出演  パク・ジフ/キム・セビョク/イ・スンヨン/チョン・インギ
ナンバー  22
オススメ度  ★★★


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