こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エスター ファースト・キル

ツインテールの童顔、身長は140センチくらい。10歳児の外見のまま成長が止まった女は長い年月を経てゆがんだ精神を熟成させ、より狡猾により残忍にサイコパス的性向を強めていく。物語は、警備厳重な精神病棟から “脱獄” した女が裕福な家庭を蝕んでいく過程を描く。純真無垢な笑顔と寂しそうな表情を使い分ければ初対面の大人はすぐに騙せる。利用できそうな相手の懐には飛び込んで信頼させ、正体を探る者には容赦なく襲いかかる。愛情なんかいらない。同情はもっと嫌い。彼女はただただ己の運命を呪い幸せな人々を憎み秩序を壊そうとするのみ。知性が高く計算高く感情をコントロールする術を心得ているが、他人を信じる心は決定的に欠けている。彼女のほくそ笑みは、標準的な価値観を根底から否定する純粋な邪悪は確かに存在すると訴える。

施設から逃亡した女は行方不明者リストから背格好が近いエスターという少女を名乗り、誘拐されたのち解放されたと言い張る。出迎えた米国人一家では父が歓待してくれる。

だが母はどこかエスターを試しているかのようにふるまい、兄に至っては露骨に拒否反応を示している。精神科医も、本物のエスターが行方不明になったときの捜査担当刑事も疑いを隠さない。画家の父だけは絵心のあるエスターが実の娘と信じている。母と兄はなぜすぐにエスターが偽物と見抜いたのか。エスターと母・兄の双方が腹に一物抱えながら探り合いをしている。その緊張感は血しぶき飛び交うホラー的表現よりもよほど恐怖感をあおる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて母はエスターに真実を語って聞かせる。それは一種の取引で、お互いに相手の口を封じなければならないけれど事を荒立てたくない点では一致していて、父に対して嘘をつきとおすという奇妙な共犯関係が成り立っている。兄はアホ、父も疑り深くない。だが母だけはエスターが想定していた以上に頭の回転が速く、子供の外見の下に血塗れの過去があることを見抜いている。どちらにも感情移入できなかったが、男の愚かさが印象に残った。

監督     ウィリアム・ブレント・ベル
出演     イザベル・ファーマン/ジュリア・スタイルズ/ロッシフ・サザーランド/マシュー・アーロン・フィンラン
ナンバー     61
オススメ度     ★★★


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