ペコロスの母に会いに行く
監督 森崎東
出演 岩松了/赤木春恵/原田貴和子/加瀬亮/竹中直人/大和田健介/松本若菜/原田知世
ナンバー 33
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
数十年も過去の出来事は鮮明に覚えているのに、ついさっきのことは忘れている。改善は望めない、確実に進む認知症の母親を持った男は自宅で介護するのは無理と養護施設に預けてしまう。もはや肉体は衰え心も時に空っぽになる、お迎えを待つばかりの身、彼女は膨大な記憶をふるいにかけ美しい思い出だけを残そうとする。映画は、年老いた母の半生を息子が振り返るうちに、彼女がどんな思いで生きてきたかを知る過程を描く。幼馴染との約束、弟妹の面倒に明け暮れた少女時代、酒浸りの夫に泣かされた日々、ひとり息子と蚊帳の中で寝た夜。すべてが今となってはかけがえのない体験だったと思えてくる。平凡な人生だった、それでもかかわった人々を愛していたのは確かなのだ。
夫の死後ボケ症状が進む母・みつえと2人で暮らしていた雄一は、彼女を養護施設に入れる決心をする。明るい雰囲気の施設に、はじめは自室にこもりがちだったみつえも徐々に慣れ始めるが、一方で雄一の顔を思い出せなくなっていく。
オレオレ詐欺に話がかみ合わない、勝手に家を空ける、駐車場で夜まで佇んでいる、大量の下着をタンスに隠す。みつえの行動に振り回される雄一はきつく叱るが、「親を悪者にする」という一言でそれ以上言い返せない。育ててくれた母のそばにずっといてやりたいが自分の生活も守らなければならない雄一。彼らのやり取りはコミカルに描かれるが、息子のまさきと2人で弁当を食べるシーンに、雄一が抱える“死ぬまで終わらないやるせなさ”が象徴されていた。また、夫の弟やみつえの妹たちもボケが始まっているあたり、もう後戻りできない高齢化社会がリアルに迫ってくる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
要介護の高齢者は今後ますます増えていく。医療の発達で彼らはなかなか死なず、福祉の名のもとでばらまかれる税金の負担に現役世代は耐えられそうにない。行政も本音では生産的活動をしない高齢者にカネを使いたくないはず。だが、己の親には元気で長生きしてもらいたい。そんな矛盾した感情に胸がつぶされそうになる作品だった。
オススメ度 ★★★*