こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グランド・ブダペスト・ホテル

otello2014-06-10

グランド・ブダペスト・ホテル The Grand Budapest Hotel

監督 ウェス・アンダーソン
出演 レイフ・ファインズ/F・マーレイ・エイブラハム/ マチュー・アマルリック/エイドリアン・ブロディ/ウィレム・デフォー/ ジュード・ロウ/シアーシャ・ローナン/トニー・レヴォロリ
ナンバー 132
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

断崖絶壁の頂に建つ贅を尽くしたホテル、今はすっかり寂れてしまったがかつては上流階級の社交場のにぎわいを見せ、コンシェルジュはホテルの顔としての権限を持ち責任を負っていた。映画は、そんな古き良き時代が戦争によって終わりに近づく頃、一枚の肖像画を巡って数奇な運命をたどったコンシェルジュの冒険を描く。欲に目がくらんだ人々に追われ命を狙われる中、抜群の機転とネットワークで危機を切り抜ける主人公の職業哲学はある種の美学が感じられ、その不屈の行動力は“お客様のため”という彼の生き方が凝縮されている。ファンタジックな空気が充満したプロローグは、絵本の表紙をめくるような期待感を味あわせてくれる。

見習いのボーイとなったゼロはコンシェルジュのグスタフから仕事のイロハを叩き込まれる。ある日、なじみ客の富豪夫人が死亡、名画の相続人にグスタフが指名されたのを機に、思わぬ騒動に発展する。

建物の外観、ホールの階段、廊下の両側の部屋、山頂を結ぶロープウェイ……。昔語りのほとんどを占める直線で構成されたシンメトリーな構図は、ゼロが記憶を美化している暗示なのだろう。奇妙な事件に巻き込まれた、絶体絶命のピンチも乗り越えた、何よりも自分の選択は正しかったと肯定する。そして育ての親ともいうべきグスタフと、彼から受け継いだホテルの思い出を語ることを許される唯一の人間の誇りを象徴している。一方で綿密に計算された左右対称に目が慣らされると、ごく普通の、たとえば屋根裏部屋のベッドを横からとらえたショットでさえも、不確定要素が潜んでいるのではと不安にさせられる。まさに視覚から洗脳する映像マジック、この奇譚にこそふさわしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、死んだ大作家の若き頃の回想記の登場人物が過去を振り返るまどろっこしい入れ子構造をとるなど、相変わらずウェス・アンダーソンの世界観はユニークで独善的。物語は人から人へと伝わるうちに語り部に都合よく解釈され改変されていくと言いたかったのか。確かにメタファーには満ちている、だが想像力が刺激される以前に、“この面白さはわかる者だけにわかる”的な作為が鼻につくのだ。どうもこの監督のセンスは性に合わない。。。

オススメ度 ★★

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