海を感じる時
監督 安藤尋
出演 市川由衣/池松壮亮/阪井まどか/高尾祥子/三浦誠己
ナンバー 231
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
愛なんかじゃない、必要とされたかっただけ。恋なんかじゃない、抱きしめてほしかっただけ。高校時代、あれほど焦がれて大都会まで追いかけていったのに、近くにいる今では情熱は薄れてしまった。肉体の交わりで実感できた己の存在意義も、馴れ合いのような日常の中でぼやけてきた。いったい何が欲しかったのか、探していたものは見つかったのか。物語は、早熟なリビドーに身を委ねてきた女子高生が片思いの男にすがりつき手に入れる過程で、彼女自身を見つめ直していく姿を描く。自分で自分が理解できない、そんなヒロインの苦悩が切ない。
高校の新聞部の先輩・洋にキスされた恵美子は求められるままに体を許す。その後も恵美子は洋に付きまとい、卒業後東京に出た彼のアパートに押しかける。一方で厳格な母親は、恵美子をふしだらな娘と厳しく叱る。
三島由紀夫、朝日ジャーナル、だるまストーブ…。学校や部室には70年代らしい小物は確かに置かれてある。当然パソコンもケータイもないが洋と恵美子の制服やヘアスタイルは現代風。東京での生活も電子機器は出てこないが、かといって40年近く前の雰囲気は感じられない。それらディテールへのこだわりが希薄なせいで、舞台が21世紀だと言われても違和感はない。時代の空気を忠実に再現してこそ母親の古いモラルやセックスに溺れる女子高生という設定も生きてくるのだが。。。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
さらにくどいほどの長いショットが延々と積み重ねられる。ところが、恵美子と洋を凝視するカメラが彼らの心情を浮き彫りにしていくのかと思いきや、スクリーンには間延びした時間ばかりが投影される。そばにいてもお互いの内面には踏み込まないふたりの関係を象徴してはいたが、結局最後まで彼らの気持ちに寄り添うことはできなかった。唯一、恵美子の浮気を知った洋が怒りにまかせてバックから彼女を一突きする、その嫉妬が実体を伴っていた。
オススメ度 ★*