こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

薄氷の殺人

otello2015-01-13

薄氷の殺人 白日焔火

監督 ティアオ・イーナン
出演 リャオ・ファン/グン・ルンメイ/ワン・シュエピン/ワン・ジンチュン
ナンバー 8
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

透き通った白い肌、憂いを秘めた黒い瞳。人目を避けて暮らしているのに、惹きつけてやまない儚げな美女は、まさしく“西施の顰”。悲劇に巻き込まれた未亡人という以上の忌まわしさと妖しさを発散させ、捜査員たちのカンを惑わせる。物語は迷宮入りしたバラバラ殺人事件が原因で辞職した元刑事が、再び同様の事件に遭遇、鍵となる女に取り込まれていく姿を描く。大胆な省略と空白を多用した心理描写はナイフを突きつけられるような緊迫感を生み、謎が謎を呼ぶ展開は深い森で途方に暮れる感覚を味あわせてくれる。近づいてはいけないのはわかっている、それでも真実を知らなければならない。抗いがたい誘惑と翻弄される運命、サスペンスと情念を孕んだショットの連続は予想外の結末に見る者を導いていく。

切断された手が石炭工場で見つかり、その後も遺体の一部が他の工場で回収される。捜査員のジャンは容疑者を射殺、真相不明のまま退職する。5年後、2人分のバラバラ死体が発見されるが、いずれも前回事件の被害者の妻・ウーが絡んでいた。

飲んだくれの警備員に身を窶したジャンは、元同僚からウーの情報を聞きだし、単独でウーの調査を始める。それは過去に決着をつけるためだが、抱きしめると壊れそうなウーの内なる暗黒に未知の魅力を感じるからでもある。雪に埋もれ凍てついた町、ジャンの心に秘められた感情もそれに応えるウーの思いも白い吐息となって、彼らの口から漏れては消えていく。社会の底辺を這いずり回る映像は、突然人が失踪する日常に慣れた中国人の他人への無関心と権力への不信感を強調する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、事件解決の糸口となる高級コートを手に入れたジャンは、そこから恐るべき事実にたどり着く。ウーは死に憑りつかれた女なのか、それとも守ってあげるべきか弱い細腕に過ぎないのか。見せないことで想像力を刺激する洗練された演出は、愛の不毛と命の軽さを強烈に訴えていた。

オススメ度 ★★*

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