トイレのピエタ
監督 松永大司
出演 野田洋次郎/杉咲花/リリー・フランキー/市川紗椰/古舘寛治
ナンバー 135
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
画家として身を立てる夢はあきらめた。漫然としているうちに希望もなくした。バイト先とアパートを往復する日々、気楽なひとり暮らしの中で将来にたいする漠然とした不安ばかりが大きくなっていく。だが、抗おうともせず埋没するうちに、いつしか末期ガンに侵されている。物語はそんな主人公が残りの時間をどう過ごしたかを描く。様々な人と出会い、励まされたり慰められたりするが、やっぱり前向きにはなれない。それは自身が抱える恐怖ややり残したことへの後悔を他人に知られたくなかったから。他者との交流が触媒となってエピソードが外向きに展開する通俗的な話法とは一線を画し、社交的でない人間の“そっとしておいてほしい”という気持ちがリアルに再現されていた。
フリーターの宏は仕事中に倒れ病院で検査を受ける。待合室で知り合った風変わりな女子高生・真衣を伴って医師から結果を聞かされると、真衣は宏に一緒に死のう誘い、宏のバイクの後席に乗り込む。
冒頭、宏は高層ビルの窓ふきゴンドラに乗るのをやめる。映画はそこで、余命わずかと宣告されたからといって誰もが「生きる」の課長のようになるわけではないと宣言する。そのとおり、宏は真衣と会ってもぶっきらぼうなまま、同じ病室のオッサンに話しかけられても反応は薄い。もちろん心配する両親にも冷淡な対応。唯一小児ガンの子供に塗り絵を作ってやったのは負い目があったから。それでも、死を間近で感じ、真衣のエネルギーに触れ、宏はほんの少し変わる。己にも何かができると気づくのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
彼の周りだけ時が止まったような野田洋次郎の単調な演技は宏の孤独を象徴する。プロの俳優ならば背中や肩で苦悩を表現するが、その不器用さが逆に杉崎花のめまぐるしい表情と対をなし、生と死のコントラストを際立たせていた。ただ、黒澤明作品へのアンチテーゼならば、宏は無気力のままでもよかったのではないだろうか。。。
オススメ度 ★★*