寝ても映画、覚めても映画。いつか自分の作品を世に出したいと夢に見ていていた。撮影所の仕組みを学び、オリジナルストーリーを考えることに余念はない。だが今はすっかりくたびれ果てた飲んだくれで借金まみれの老人。物語は、映画に人生を捧げた男が振り返る熱き日々を描く。まだフィルムを使っていた。動きの少ないショットがよしとされ、セリフにも余韻があった。台本は手書き、監督は禁煙のはずのスタジオ内で平気でタバコを吸っている。俳優もスタッフも社員、労働者としての権利を主張していたりもする。ところが、いざカチンコが鳴ると皆が心を一つにしていいシャシンを撮るために集中する。そして、そんな世界でも若者は恋をする。電話すらほとんどなかった時代、男女はすぐには連絡がつかない。恋文で告白するシーンが印象的だった。
助監督のゴウは名匠の下で忙しく立ち働きながらも脚本を執筆する日々。食堂の娘・淑子はゴウに好意を寄せているが、ゴウは親友の映写技師・テラシンと彼女を結び付けようとする。
映画監督としては成功しなかったのだろう。年金生活者となった2019年のゴウは淑子と娘・孫の4人で暮らしているが、家は墓地に隣接している。借金のせいで娘からは疎まれ淑子からも最後通牒を突きつけられ、理解者は孫だけという状況。テラシンとの友情だけはいまだに続いていて、彼が経営する名画座にはよく出かけている。娘はゴウが活躍した姿を見たことがないのか、完全に見下している。そんな、夢が破れて現実と折り合いをつけながら生きてきた男の強がりを沢田研二が軽妙に再現していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
結局撮影されなかった脚本を、孫に手伝ってもらって現代風に書き直すゴウ。山田洋二監督の人に対するあたたかい視線はここでも健在、人情に満ちたエピソードの数々はリアリティを越えてほっこりさせてくれる。ただ、映画の主人公が映画館にいる孤独な女に話しかけスクリーンから飛び出すアイデアは、すでにウディ・アレンが借用済み。これで木戸賞を目指していいのか?
監督 山田洋次
出演 沢田研二/菅田将暉/永野芽郁/野田洋次郎/北川景子/寺島しのぶ/小林稔侍/宮本信子/リリー・フランキー/前田旺志郎
ナンバー 140
オススメ度 ★★*