こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛を積むひと

otello2015-04-10

愛を積むひと

監督 朝原雄三
出演 佐藤浩市/樋口可南子/北川景子/野村周平/杉咲花
ナンバー 79
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

東京での生活に見切りをつけた熟年夫婦は、北海道の平原に建つ一軒家に引っ越し人生の再スタートを切る。夫は自分の気持ちをうまく口にできずぶっきらぼうに振る舞うが、彼の性格を知り尽くした妻は濃やかな心遣いで上手にフォローする。それでも、ふと脳裏によみがえるのは喧嘩別れしたままの一人娘。物語は、男やもめになった主人公が亡き妻の“遺言”に導かれながら、何を若い世代に伝えるべきかを模索する姿を描く。ご立派な説教など反発を買うだけ、一緒に悩み迷いつつ自らの体験に基づいたアドバイスを送り、見守ってやる。肝心なのは、いつも気に掛けていると相手の負担にならない程度に気づかせ、後は信頼していると態度で示すことなのだ。

経営していた工場の廃業を機に美瑛町の洋館に移住してきた篤史と良子。良子は作りかけの石塀を完成を篤史に提案、見習い石工の徹と共に石を積み始める。そんなある日、空き巣と鉢合わせした良子が押し倒されけがを負う。

徹が空き巣の共犯とわかっていても良子は黙っている。徹は言い出す勇気がなく、代わりに恋人の紗英を連れてきて家事を手伝わせたりする。さらに篤史と良子から誕生日の真珠の話を聞かされて徹は胸を痛める。誰にでもその人の歴史があり思い出を大切にすると教えられても、篤史以上に不器用な徹はどうしていいのか戸惑うばかり。そのあたり、新しい交友に積極的な良子と紗英、過去を引きずってなかなか打ち解けられない篤史と徹が対照的で、女と男の環境への適応能力の差が共感をもたらす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて心臓が弱っていた良子が急死、紗英が篤史に良子から預かった手紙を渡す。認められていた篤史への思いと感謝の言葉。篤史はもう一度“人の親”としての役目を果たそうと警察から徹の身元を引き受け、その経験を娘との和解に結び付ける。人間関係とは小さな事実の積み重ね、少しの思いやりの蓄積が“愛”になると、彼らが築いた石塀が静かに語っていた。

オススメ度 ★★★★

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