こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パリに見出されたピアニスト

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貧しさゆえに続けられなかった。母の苦労を知っているから口に出せなかった。ところが、まったく予期しないタイミングで夢への道が開かれる。だが今の自分に戦う勇気があるのか、目標に人生を賭ける覚悟があるのか。なにより失敗して笑いものになりたくない。物語は、偶然音楽学校の指導者に見出された少年がさまざまな葛藤を乗り越えてピアニストを目指す姿を描く。手ほどきをしてくれた老人が残してくれたピアノは蓋を閉じたまま。なのに、立派なピアノを前にすると血が騒ぎ、つい鍵盤に向かってしまう。あきらめたわけではない、でもどこか素直になれず大人の言うことを聞くのに抵抗を覚える。そんな複雑に絡まり合った主人公の気持ちが、指先で紡ぎ出される大胆かつ繊細、流麗だが力強い音楽で表現される。

ターミナル駅に置かれた演奏自由のピアノを弾いていたマチューは音楽院ディレクター・ピエールに声をかけられる。その後窃盗で逮捕されたマチューは更生プログラムで音楽院を訪れる。

マチューの素質を見抜いたピエールはピアノ教官・エリザベスのレッスンを受けさせる。音感も指使いも天才的だが、悪弊に染まってきたマチューは環境の変化に心がついていかない。真剣に向き合ってくれる大人は周囲にいなかったのだろう、ピエールを信じていない。一方、ピエールも己のクビがかかっている以上後には退けず、いよいよマチューにのめり込んでいく。せっかくできたガールフレンドに、“クラシック音楽は金持ちの娯楽” といい切るマチューの屈折した思いは、努力や才能以前に多大なレッスン費用がかかる現実を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして迎えたコンクールの当日、ピエールの妻から告げられた真実に傷ついたマチューは悪友たちの元に戻る。どうせ願いは叶わないと斜に構えていた彼は、チャレンジする前から投げ出している。いや、やめる理由を探してしまうのだ。それでも母親のひと言が彼を奮い立たせる。マチューが負け犬根性を克服していく過程はスリリングかつエモーショナルだった。

監督  ルドヴィク・バーナード
出演  ンベール・ウィルソン/クリスティン・スコット・トーマス/ジュール・ベンシェトリ/カリジャ・トゥーレ
ナンバー  187
オススメ度  ★★★*


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