こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キューティー&ボクサー

otello2013-10-22

キューティー&ボクサー CUTIE AND THE BOXER

監督 ザッカリー・ハインザーリング
出演 篠原有司男/篠原乃り子
ナンバー 255
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ボクシンググローブに刷毛を張り付け、たっぷりとペイントをしみ込ませて、キャンバスにパンチを見舞う男。純粋な芸術への情熱なのか、前衛すぎて理解されなかった憤りなのか、己の人生に対する怒りをぶつけているのか。一つだけ確かなのは、彼は決して信念を曲げなかったこと。納得がいくまで工房にこもり、作品が売れなくても方針を変えたりはしない。“「ジョーズ」以外のスピルバーグは駄作”と言い切る彼の眼には、カネを稼いだ芸術家=大衆に媚びた堕落者に映ってしまうのだ。映画はNYに移住、40年にわたって当地で活動を続ける日本人アーティストにスポットを当て、彼と彼の妻との複雑かつ愛情に満ちた日常をスケッチする。

80歳の誕生日を迎えた篠原有司男はいまだ創作意欲は衰えず、個展にむけて新たな段ボールオブジェを制作中。そんな彼を支えつつ、妻の乃り子はふたりの出会いから現在に至る夫婦の歴史をユーモアあふれるマンガにする。

乃り子もアートを志し渡米したが、奔放な有司男と結婚・妊娠したためその未来は閉ざされる。当時の彼女にとって20歳以上年上の有司男は夫である前に師であり目標。ところが有司男は彼女の才能に興味はなく、身の回りの世話をさせるために乃り子を利用していたかのよう。有司男に連れ添う貞淑な妻を演じながらも、「もしカネがあったら私を追い出していた」と有司男に毒づく場面は、彼女もまた自分の名での成功を夢見ていたとうかがわせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

有司男の展覧会に自作のイラストドラマの出展が認められた乃り子は俄然いきいきと輝き始める。曲線を多用したあたたかいタッチで描かれたふたりの歩みは、有司男にとっての自由が、乃り子には我慢を強いられてきた時間だったと饒舌に物語る。そして彼女の絵の出来栄えを見て口数が少なくなる有司男。明らかに乃り子の作品のほうが一般の観客に受ける普遍性を持っているのを有司男も気づいている。有司男を殴るペイントグローブに込められた乃り子の思いこそ、キャンバスに発散させれば素晴らしいアートに昇華されたはずだ。。。

オススメ度 ★★★

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