こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鵞鳥湖の夜

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篠突く雨、闇に浮かび上がるネオン、薄布に投影されたシルエットetc. まとわりつくような湿度を持った映像は、運命に翻弄され不運に絡めとられていく男女の退廃に満ち、ノワールな世界観に見る者をいざなう。物語は、逃亡中の指名手配犯が妻に会おうと奔走する姿を描く。些細ないざこざが原因だった。不注意で警官を殺してしまった。大捜査網が敷かれ、対立するギャングからも追われている。頼れるのは赤い服の女だけ。だが彼女も信用できるかどうかわからない。そんな状況で、愛した証を妻に残そうとする男の、傷だらけになりながらも走り続ける背中が哀しい。街中の広場で男女が出会い系ダンスパーティを開く場面で、周縁が光る靴で踊る男たちの足元が蛍を連想させるほど幻想的で美しく、人生の儚さを象徴していた。

誤って警官に発砲し死なせてしまったザーノンは、開発から取り残された観光地・鵞鳥湖に潜伏する。その地の商売女・アイアイの仲介で妻に会おうとするが、妻はザーノンを恨んでいた。

もう逃げきれないのはわかっている。ならば自分にかけられた報奨金を妻が受け取れるようにできないか。ザーノンはアイアイを利用していろいろ画策するが、深手を負っていて思い通り事は運ばない。報奨金の横取りを狙うギャングたちもザーノンの行方を探している。その過程で、隠れ家に襲撃をかけてきたチンピラをビニール傘で突き刺し、開いた傘の内側に鮮血が飛び散るシーンがあるが、死の臭いを強烈に発するこの作品のエッセンスが濃厚に凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、1930年代の映画のごとき表現主義に偏ったカメラは、ザーノンの苦悩や絶望、アイアイの不安や焦燥に迫ろうとはせず、どこか他人事のような距離感。さらに、それらの構図やショットは過去に見たことがあるものばかりで、ユニークさにも欠ける。単純なエピソードなのにあえて含みを持たせ描写するのはなぜだろう。あと、ザーノンの死体を囲んで刑事たちが記念撮影するのにも驚いた。中国警官の人権意識がこれほど低いとは。。。

監督  ディアオ・イーナン
出演  フー・ゴー/グイ・ルンメイ/リャオ・ファン/レジーナ・ワン
ナンバー  165
オススメ度  ★★*


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