こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラスト・ソルジャー

otello2010-11-11

ラスト・ソルジャー Little Big Soldier


ポイント ★★
監督 ディン・シェン
出演 ジャッキー・チェン/ワン・リーホン/ユ・スンジュン/ドゥ・ユーミン/リン・ポン
ナンバー 223
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


裏切りと陰謀、己の権力欲のためには百姓の暮らしなど顧みない上、味方の将兵の命すら平気で犠牲にする。平原に折り重なるおびただしい数の戦死者、住み処を奪われた住民、盗賊のような流浪の民、諸王が中原に鹿を逐う戦乱の世、国同士の諍いが人々を不幸にし、人心を蝕んでいく様子を再現する。映画は、将軍として戦場で死ぬことを名誉と考える男と、農民出身の一兵卒の奇妙な逃避行を通じ、戦争の非情さ無益さを説く一方、武力を用いなければ平和は守れない現実を描く。


戦国時代、梁と衛の合戦で双方ほぼ全員が戦死、生き残った梁の兵士は負傷した衛の将軍を捕虜にして褒美をもらうために梁に連れて帰ろうとする。衛の追手が迫り2人は山中に逃げるが、衛の追手は実は将軍の身柄を狙っていた。


2人とも衛軍に追われる身となるが、途中謎の女に騙されたり馬上の流浪民に捕えられたりと道は険しい。同じ敵から命を狙われている共通点があるせいか、いつしか助け合い、彼らはお互い友情すら覚えるようになる。しかし、そのあたりの映画のトーンがコミカルだったりシリアスだったりと一定せず、おかしさの中にペーソスをにじませるテクニックもない。そもそもジャッキー・チェンの役柄が臆病な農兵のため、彼の超人的な武術体術を見られず、石投げだけが得意技なのはさみしい。もう少し彼にふさわしいキャラクターを用意できなかったのか。


◆以下 結末に触れています◆


その後もさまざまな山場が用意されるが、それらはアクションシーンのために無理矢理作ったような設定の感があり、物語との整合性に欠けている。また、カメラワークが単調なせいで、映像からは躍動感や疾走感がまったく伝わってこないのが残念。ジャッキー・チェンはもはや激しい動きに耐えられないのだろう、彼の見せ場が少なくなっているだけに、もっと表現法を工夫して欲しかった。最後に、せっかく将軍と兵士は非攻を約束したのに、兵士の祖国は秦に滅ぼされていたという皮肉は、結局平和は戦争でしか守れない人間の愚かさを象徴してはいたが。。。