妻として完璧に家庭を守ってきた。母として一人娘に愛を注いできた。しかし、女としての欲求に火が付いたとき、彼女は己の感情を抑えきれなくなった。物語は、数年ぶりに働きに出た主婦が、職場の同僚と恋に落ち深みにはまっていく姿を描く。夫も姑も気づいていないけれど、幼い娘は敏感に感じ取っている。誰かの妻や母ではない、きちんと職務をこなした上で独立した個人として扱われることの快感に彼女は目覚める。やがて娘の世話を夫と押し付け合うようになると、彼女の気持ちはますます家族から離れ恋人に近づいていく。そして出口のないトンネルのような道行き。自分から誘う視線を投げかけておきながら相手がその気になると意外そうな顔をする、清純派のフリをして男心をつかむ駆け引きに長けた女を、夏帆が可憐に演じていた。
夫の同伴で出席したパーティで10年前に付き合っていた鞍田を見かけた塔子は、彼の後を追う。その後、塔子は鞍田が勤務する事務所に再就職、営業の途中で鞍田とよりを戻しそのまま彼の部屋に行く。
仕事と家庭の両立、最初のうちはうまくいっていた。鞍田との関係も何とかごまかしてきた。ところが娘の面倒を満足に見られなくなると、夫婦間に不和が生じる。夫の収入だけで十分に豊かな暮らしが保証されているのに、家族よりも会社を優先させる塔子に、夫は仕事を辞めろという。激しく反発する塔子は選択を迫られる。女性の社会進出と共に妻もまた不倫の当事者となる。かつて実父から受けた仕打ちを今度は愛娘にする塔子の愚かさを、切ない曲想の「ハレルヤ」が象徴していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
出張先で大雪に遭い足止めを食らった塔子は、なぜか迎えに来ていた鞍田のクルマに乗る。目的地に向かっているが、目的地についてほしくない。このままふたりだけの時間が永遠に続けばいい。塔子も鞍田もそう願いながらもあと一歩踏み出す勇気が持てない。その先に待っているのは希望ではないとわかっていながらふたりは雪道をひた走る。そんな彼らの心の襞が繊細な映像で再現されていた。
監督 三島有紀子
出演 夏帆/妻夫木聡/柄本佑/間宮祥太朗/片岡礼子/余貴美子
ナンバー 35
オススメ度 ★★★
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