こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミッドサマー 

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沈まない太陽、咲き誇る花と濃い緑、笑顔で歓待してくれる親切な人々。まるでおとぎ話の楽園のごとき小さな村、だが、その秘密を目撃したときおぞましい恐怖に襲われる。物語は、スウェーデンの人里離れたコミューンを訪れた米国の大学生が体験する儀式を描く。土着の風俗を取り上げる民俗学研究のつもりだった。カルト集団の趣を持ってはいるが無害な集団だと思っていた。痛みも快感も喜怒哀楽も共有する村人たちは全員が家族のような結束を誇っている。ところが常に監視されていて逃げ場がない。外部とは孤立して連絡は取れない。そして生と死の概念が通常とは決定的にかみ合わないと知った大学生たちは、なぜ自分たちがこの村に連れてこられたかに気づく。そんな彼らの、まったく価値観の異なる文化と遭遇した時の動揺がリアルに再現されていた。

家族を亡くしたダニーは恋人のクリスチャンと彼の3人の友人と共に90年に一度の祝祭の見学に行く。バカンス気分に浮かれていたが、老人の死を祝う場に立ち会ったことから平常心を失っていく。

村では72歳が寿命と定められ、人々は命を循環させるために自ら天寿を全うする。ダニーたちはショックを受けるが、養護施設で無為な余生を送らせる方が非人間的という考え方には一理ある。人間は自然の一部、村という組織を維持するために自我を捨てるのが当然ととらえているのだ。調和の取れた世界、その秩序を守ることこそが最大の使命と信じる彼らの生き方は、個人の自由を尊重する一般社会よりもむしろ地球にやさしいと思わせる。長回しを多用したショットの連続は、ダニーたちが覚える違和感を十分に浸透させる効果を持ち、金切り声に似た音楽が感情をかきむしる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ダニーに儀式をやめさせる手立てはなく受け入れるしかない。やがて彼女は心の奥に眠っていた本性を目覚めさせる。所属する社会から教えられた善悪の基準など相対的、真理もまた共同体によって違う。すべてを見届けたダニーの笑顔は、己の居場所を見つけた満足感にあふれていた。

監督  アリ・アスター
出演  エローラ・トルキア/ウィル・ポールター/アーチー・マデクウェ/ジャック・レイナー/ウィルヘルム・ブロングレン/フローレンス・ピュー
ナンバー  34
オススメ度  ★★★*


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