こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

名もなき生涯 

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緑深い山地の農村、人々は単調だが平和に暮らしている。若者が出征しても戦場になったりはしなかった。だが、戦争と独裁者は濃厚な影を落としていく。物語は、第二次大戦中のオーストリアで兵役を拒否した男の闘いを描く。親しいユダヤ人が連行されたわけではない。政治的・思想的背景もない。ただ、ヒトラーが放つ違和感に良心が納得しないだけ。教会に相談すると、祖国への義務だと言われる。村や町の有力者はなだめすかし翻意させようとする。それでも思いは動かない。理解してくれるのは妻ひとり、夫婦は手紙をしたためお互いの胸中を伝えあい変わらぬ愛を貫き通す。絵葉書のように美しい風景は四季と時間の移ろいを通じて彼らの決意の固さを象徴し、精緻な構図は感情を代弁する。テレンス・マリックの手にかかればこんなテーマでも映像詩になってしまうのだ。

ドイツ軍に参加してフランスと戦ったフランツは復員後、妻・ファニと農作業に精を出す日々。しかし、二度目の召集がかかってもフランツは応じず、ヒトラーへの忠誠を誓う書類にも署名しなかった。

ドイツへの併合を地元の人々も快く思っていないけれど、ナチスの台頭に今はみな頭を低くしている。フランツに共感する人もいるけれど、協力はしてくれない。サインなど形だけと懐柔する人もいる。面従腹背でやり過ごせば拘束されることもない。ところがフランツはあくまで “正義” と信じた道を行く。特に高度な教育を受けているとは思えない彼がここまで頑なになったのはフランス戦線での体験が原因なのか。映画はそこに言及しないが、実際の戦争でフランツが目にした出来事を想像させる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ベルリンの拘置所に移送されたフランツは、狭い独房、看守による暴力、貧弱な食事、無意味な労働等、反逆罪などで収監されている人々の心を折るためだけの日常に置かれる。そこでもフランツは己を曲げず、判決を甘んじて受ける。信念に殉ずるのは英雄的な行為、一方で遺された家族に待つ現実はまた別の真実でもあるとこの作品は訴えていた。

監督  テレンス・マリック
出演  アウグスト・ディール/バレリー・パフナー/マリア・シモン/トビアスモレッティ/ブルーノ・ガンツ
ナンバー  36
オススメ度  ★★*


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