精神と肉体を蝕んだウイルスは駆除した。しかし、おぞましい記憶と罪の意識は消えず、悪夢にうなされる日々が続く。さらに、世間の冷たい視線が身に突き刺さる。意思が喪失していたとはいえ人を「食った」のは事実。その過去と向き合う彼は徐々に居場所を失っていく。物語は、ゾンビ状態から回復した青年が感じる生きづらさを描く。再発はしないと国連機関から保証されている。一方で道を踏み外さないよう監視されている。だが、彼らを受け入れる非感染者たちの胸中は複雑で、はれ物に触るように彼らに接する。非感染者たちの思いを知る主人公もまた、正面から目を合わせる勇気を持てない。一度できてしまった感情の溝はなかなか埋まらない。元ゾンビと人間、登場人物のそれぞれの心の襞が繊細かつリアルに再現されていた。
人間がゾンビ化するメイズ病が大流行するが、75%の感染者は快癒、社会復帰を果たす。憎悪のまなざしのなか、セナンは兄の妻・アビーに身元引受人になってもらい、彼女とその息子・キリアンと暮らし始める。
回復者の多くは帰る場所もなく、感染前の職業を希望しても許されるのは肉体労働だけ。彼らの社会復帰を反対する人々は偏見を隠さない。セナンの感染者友達・コナーはそれを差別とみなし、回復者の “人権” を訴えるテロを準備する。己の権利より罪悪感が勝るセナンは、実の兄を食い殺した自分にまともな人生を送る資格があるのかと迷っている。決意を固められないセナンの苦悩と葛藤は、彼の精神が完全に人間に戻っていることを象徴していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ただ、映画は夢オチやショッキングな音響で驚かせるなどB級ホラー的な演出が目立ち、せっかくの題材を生かし切れていない。その上、メイズ病対策部隊の隊長があっさり殺されたり、感染者収容施設の警備が驚くほど甘かったり、ウイルス研究者が感染者に対しあまりにも無防備だったりと肩透かしの展開が続く。もっとディテールを大切にして、切なさや悲しみを前面に出せば “異色のゾンビ映画” として記憶されたはずだ。
監督 デイヴィッド・フレイン
出演 エレン・ペイジ/サム・キーリー/トム・ヴォーン=ローラー/ポーラ・マルコムソン
ナンバー 75
オススメ度 ★★
↓公式サイト↓
http://cured-movie.jp/