こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

お名前はアドルフ?

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正気かと疑った。子供がかわいそうだと問い詰めた。なんども説得を試みた。だが、彼は決心を変えようとしない。物語は、生まれてくる赤ちゃんに20世紀最悪の独裁者の名を付けようとする男と、彼の親類縁者の葛藤を追う。一般的には禁忌とされているが法律で禁止されているわけではない。むしろ、その名を名乗らせることが社会にはびこる偽善との闘いになると強弁する。そして、他のどんな名前にちなんだところで、過去に同じ名前を持つ極悪人はいたと屁理屈を並べ立てる。やがて、彼らはその人間性をむき出しにして、自分の主張の正しさと相手の論理の不備を突く。もはや議論のための議論、テーマなんかなんでもよく、とにかく他者の発言に異を唱え己の優位性を確保するのが主眼となっている。ドイツ人にとっては論争こそが他者を理解する手段なのだ。

シュテファンとエリザベト夫妻の家に食事のために集まったレネとトーマス。トーマスが我が子にアドルフと命名すると言い出すと、4人に侃々諤々の言い合いが始まる。

この名前で出西届を出すと、一応戸籍係から本気なのかと意志の確認がとられるという。日本でも “悪魔” と名付けようとして役所に拒否され裁判沙汰になったり、“王子様” の名を持つ青年が「親がバカだと自己紹介しているようなもの」と改名したりと、本人の意思が及ばぬ突飛な名前は決して当事者を幸せにしないと証明されている。名付け親には、その名を負う子の人生に対する責任があるのにもかかわらず、自覚していない者が外国にも一定数いる事実に少し驚いた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高卒でビジネスで成功したトーマスと大学教授のシュテファンはお互いに複雑な感情を抱いている。トーマスの熱を帯びた反論にシュテファンも再反論するが結論は出ない。さらにトーマスの妻も加わり、真実が明らかにされた後も5人は自らの本音を赤裸々に語る。日本だったら、いくら仲の良い親族の集まりでも、遠慮なく言い合うのはドラマの中だけ。ドイツでは一般人も日常的にあんな激論を交わすのだろうか。

監督  ゼーンケ・ヴォルトマン
出演  フロリアン・ダーヴィト・フィッツ/クリストフ=マリア・ヘルプスト/カロリーネ・ペータース/ユストゥス・フォン・ドーナニー/ヤニーナ・ウーゼ/イリス・ベルベン
ナンバー  87
オススメ度  ★★★


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