こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンティークの祝祭

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思考があいまいになってきたが、自分の命が燃え尽きるのは明確に感じ取れる。その前に、生き別れたままになっている娘とのわだかまりは解きたい。物語は、死期を悟った老婆が屋敷中にある高価なアンティークを処分していくうちに、過去を回想していく姿を描く。貴族館のような広大な邸宅と庭園にずっとひとりで暮らしていたのだろう。物質的な欲望をいくら満たしても心の空白は埋まらなかったのだろう。だからこそ思い出が詰まっているはずの家具骨董絵画自動人形などをためらわずに手放せる。結局、何も得ることのなかった生涯、ならば手ぶらであの世に行こう。そう決心したのに娘との関係が気持ちを乱し、認知症特有の症状が出る。そんな難しいヒロインをカトリーヌ・ドヌーヴが毅然と演じていた。

年老いた母・クレールが家財の投げ売りを始めたと連絡を受けたマリーは、20年ぶりに実家に帰る。しかしクレールは事あるごとに結婚指輪の話を蒸し返し、距離はなかなか縮まらない。

クレールの遺産を当てにしていたわけではないが、マリーは家宝ともいえる貴重品をタダ同然で売るクレールが正気とは思えない。一方で、クレールの脳裏には家財が売れるたびにモノに染み付いた思い出がよみがえる。忘れていた、いや無理に封印していたのかもしれない。息子の死、夫の死、マリーの家出。クレールの頭の中で明確になっては消える忌まわしい記憶。母としても妻としても失格だった。けれどただひとりの家族であるマリーとだけは和解しておきたい。にもかかわらずその思いを覚えておけず、きつい物言いになったりするクレール。老いとはかくもままならないものであるとクレールの一貫しない態度が象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も入院したり徘徊したりとマリーの手を煩わせるクレール。長年マリーが盗んだものと誤解していた指輪が見つかりクレールのもとに戻り、もはや心残りはなくなったのだろう。自分の存在を派手に消してから逝く、いかにもクレールらしい最期が、人生は美しいと訴えていた。

監督  ジュリー・ベルトゥチェリ
出演  カトリーヌ・ドヌーヴ/キアラ・マストロヤンニ/ アリス・タグリオーニ/ロール・カラミー/サミール・ゲスミ
ナンバー  88
オススメ度  ★★*


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