こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

隠された日記

otello2010-08-31

隠された日記 MERES ET FILLES

ポイント ★★★*
監督 ジュリー・ロペス=クルヴァル
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/マリナ・ハンズ/マリ=ジョゼ・クローズ/ミシェル・デュショーソワ/ジャン=フィリップ・エコフェ
ナンバー 198
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


血を分けた母娘なのに、どこかぎくしゃくしてしまう。憎み合っているわけではないのに、ふたりきりになると言葉がとげとげしくなる。それは夫と子供たちを残して姿を消した祖母の性格をお互いに受け継いでいると思っているから。家族よりも自分の人生を大切にしているにもかかわらず、自立を勧めたことに後ろめたさを覚えている。そんな、母に手に職を持てと育てられて医者になり、娘にもキャリア志向を促した半面、母にも娘にも“捨てられた”と感じている女性の複雑な心情をカトリーヌ・ドヌーブが不機嫌な表情で演じる。そして思い出したくない過去と封印した記憶がよみがえった時、母と娘は真実の愛を発見する。


久しぶりに両親のもとに帰郷したオドレイは、母のマルティーヌと衝突、祖父母が住んでいた海辺の家に移る。台所を整理していると、失踪したと聞かされていた祖母・ルイーズの日記と大金を見つける。そこには外で働きたいという切なる願いと子供たちへの想いが綴られていた。


望まぬ子を妊娠しているオドレイはマルティーヌに打ち明けられない。オドレイのそのよそよそしさにマルティーヌは気分を害していて、ルイーズのことを今さら蒸し返すのにもウンザリしている。マルティーヌにとってルイーズは許しがたい存在なのだろう、日記をもとにルイーズ像を勝手に構築し彼女に共感を示すオドレイにイライラが募っていく。


◆以下 結末に触れています◆


ルイーズが荷物も持たずに突然消えた不自然さにマルティーヌは気づいていたに違いない。しかし、その可能性が示す恐ろしい結末に無理に目をそむけ、ルイーズは家出したと己にも周囲にも信じ込ませようとしていたマルティーヌ。ところが、日記と共に大金が保管されていたことから疑念が確信に変わり、一方でどれほど母親に愛されていたかを知る。今更真相がわかっても時間は戻らない、ならばせめて未来は同じ過ちを繰り返すまい。そういう思いが、オドレイが贈ったドレスにマルティーヌが袖を通すシーンに凝縮されていた。母娘だからこその感情のこじれと和解、その距離感の難しさが繊細に描かれている作品だった。