感情をコントロールできない。衝動を抑えきれない。正義感も家族愛も強いのに、そのせいで損している。物語は、小さな町の警官が少しずつ周囲から孤立していく姿を描く。体を張って住民の安全と治安を守っているつもりなのに、熱意が空回りする。妻は愛想を尽かして出ていった。最愛の娘とは微妙な距離ができ始めている。上司とは馬が合わず、同僚との仲もギクシャクしている。母親が死んだばかりで友人知人から同情の目で見られてはいるが、同時にそれは半分白い目でもある。ところが当人は他人からどう思われているかまでには気が回らず、ついいつもの調子で眉を顰める言動に走ってしまう。ある種の精神疾患を抱えているのかもしれない。だが治療が必要なほどでもない。そんな不器用な主人公は、応援したくなるほど人間味にあふれている。
母の葬儀でスプリングスティーンの名曲を歌おうとして失敗したジム。相続したバレエスタジオを売り払って、ひとり娘・クリスタルの養育権を巡る裁判の弁護士費用に充てる。
喪主としてのスピーチで、用意したミュージックテープが作動せず、仕方なく無音のダンスを披露するジム。母を喪った悲しみがこみあげてきて、言葉にしようとしているのにまともな話にまとまらない。彼はその思いを必死で表現しようとするが、踊っているうちにさらに自制がきかなくなり、とうとう退席を促されてしまう。まじめに取り組むほど想定外の結果が待っているジムの日常に、ままならない人生の皮肉が凝縮されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
クリスタルと過ごす週三日を楽しみにしているジムは、元妻の引っ越しで親権を奪われてしまう。そして警察の上司や同僚とももめ、ついにはクビを言い渡される。悪態をつく前に一息置けばいいのに、行動に移す前に深呼吸すればいいのに、ジムの口も体も勝手に動いてしまう。確かにこんな男に幼い娘の面倒を見させるのは危険だろう。それでも、一生懸命に娘を愛し理解しようとしているのは伝わってくる。父娘関係の修復に見えたわずかな希望が救いだった。
監督 ジム・カミングス
出演 ジム・カミングス/ケンダル・ファー/ニカン・ロビンソン/ジョセリン・デボアー/チェルシー・エドマンドソン
ナンバー 99
オススメ度 ★★*