こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サンダーロード

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感情をコントロールできない。衝動を抑えきれない。正義感も家族愛も強いのに、そのせいで損している。物語は、小さな町の警官が少しずつ周囲から孤立していく姿を描く。体を張って住民の安全と治安を守っているつもりなのに、熱意が空回りする。妻は愛想を尽かして出ていった。最愛の娘とは微妙な距離ができ始めている。上司とは馬が合わず、同僚との仲もギクシャクしている。母親が死んだばかりで友人知人から同情の目で見られてはいるが、同時にそれは半分白い目でもある。ところが当人は他人からどう思われているかまでには気が回らず、ついいつもの調子で眉を顰める言動に走ってしまう。ある種の精神疾患を抱えているのかもしれない。だが治療が必要なほどでもない。そんな不器用な主人公は、応援したくなるほど人間味にあふれている。

母の葬儀でスプリングスティーンの名曲を歌おうとして失敗したジム。相続したバレエスタジオを売り払って、ひとり娘・クリスタルの養育権を巡る裁判の弁護士費用に充てる。

喪主としてのスピーチで、用意したミュージックテープが作動せず、仕方なく無音のダンスを披露するジム。母を喪った悲しみがこみあげてきて、言葉にしようとしているのにまともな話にまとまらない。彼はその思いを必死で表現しようとするが、踊っているうちにさらに自制がきかなくなり、とうとう退席を促されてしまう。まじめに取り組むほど想定外の結果が待っているジムの日常に、ままならない人生の皮肉が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クリスタルと過ごす週三日を楽しみにしているジムは、元妻の引っ越しで親権を奪われてしまう。そして警察の上司や同僚とももめ、ついにはクビを言い渡される。悪態をつく前に一息置けばいいのに、行動に移す前に深呼吸すればいいのに、ジムの口も体も勝手に動いてしまう。確かにこんな男に幼い娘の面倒を見させるのは危険だろう。それでも、一生懸命に娘を愛し理解しようとしているのは伝わってくる。父娘関係の修復に見えたわずかな希望が救いだった。

監督  ジム・カミングス
出演  ジム・カミングス/ケンダル・ファー/ニカン・ロビンソン/ジョセリン・デボアー/チェルシーエドマンドソン
ナンバー  99
オススメ度  ★★*


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