こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スペシャルズ!

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突然走り出す。地下鉄の非常ベルを鳴らす。自傷行為に及ぶ。相手に頭突きをくらわす。いくら言葉で説明しても、しばらくすると同じ行動をとる。物語は、知的・精神的な障害を持つ患者たちをケアする施設を運営する男の奮闘を追う。親では手に負えない。病院には断られる。認可施設では受け入れてもらえない。そんな若者たちをすべて引き受け、少しでも彼らに人間らしい暮らしをさせたいと願う主人公。ひっきりなしにかかってくる呼び出し電話、エリート役人による査察、破たん寸前の財務、社会復帰のための企業訪問etc. 無責任だと批判される。無認可だと責める人もいる。自己満足に患者を利用しているようにも見える。だが、彼の胸にあるのは、見捨てられた患者たちを救いたいという純粋な良心だ。

自閉症発達障害を抱える青少年を預かる「正義の声」の責任者・ブリュノは、比較的軽度の患者・ジョセフに働き口を見つける。しかし、ジョセフをひとりで電車には乗せられない。

何度注意しても直らない。ブリュノを困らせれば構ってもらえると考え、わざとやっている風にも思える。悪意はないようだが、時おり見せるにやけた口元が疑念を抱かせる。それでもブリュノは彼を疑わず寄り添おうとする。粗野な風貌とそっけない態度からは想像もつかない大きな心を持つブリュノ。彼もまた、かつては自己表現がうまくできず世間に馴染めなかった時期があったのだろう。複雑な過去と大いなる愛を感じさせる人物像をヴァンサン・カッセルが繊細に演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、別の患者を託されたブリュノは、知人から紹介されたディランを介助者に充てる。時間すら守れず言い訳ばかりのディランは患者を見守る仕事を任されることで他人との付き合い方や距離感を学び、成長していく。映画は、善意の人と社会からはみ出した人の交流を通じて生きるとは何かを探る。そこから先にあるのは、回復の見込みはない患者らにどんな人生を送ってもらうべきかという、答えのない問い。お涙頂戴に流れず好感が持てた。

監督  エリック・トレダノ/オリヴィエ・ナカシュ
出演  ヴァンサン・カッセル/レダ・カテブ/ブライアン・ミアロンダマ/ベンジャミン・レシュール/マルコ・ロカテリ
ナンバー  159
オススメ度  ★★★


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