殺戮ばかりの人生で他人とかかわる術を教えてくれたあの人とは、戦場で生き別れた。消息はわからない。みな忘れろという。だが、再会するまで絶対にあきらめない。物語は、戦闘マシンだった少女が手紙代筆業を続けるうちに喜怒哀楽を学び、恩人を探す姿を追う。血で汚れていた両手は金属になり、いつしか胸を打つ文章をタイプできるようになった。さまざまな依頼人の思いをしたためるうちに、世の中には美しいものやあたたかいものがあると知った。でも「あいしてる」という感情だけはあの人がいないと意味がない。平和を取り戻した世界は、人が人を思う気持ちであふれているのに、ヒロインの心は空白のまま。だからこそ、誰かを救えば自分も救われると信じている。「強く願ってもかなわない思いはどうすればよいのでしょうか」と問う彼女の瞳は深い憂いを含み、罪を背負って生きる悲しみに満ちていた。
代筆の腕を上げたヴァイオレットは余命わずかな少年の依頼を終える。一方、あて先不明の手紙を調査した社長は差出人がギルベルトと推察、ヴァイオレットと共に遠い島を訪ねる。
教育と電話の普及で代筆業は廃れつつある。そんな時代でも、ヴァイオレットは話し言葉では伝えきれない態度や表情といった言外の情報を的確に読み取って本当の気持ちを文字に綴る。詩のようなリズムと具体的な単語で、依頼人の頭の中に渦巻いている思いに形を与えていくのだ。その過程は繊細なタッチのアニメでエモーショナルに再現され、計算されつくしたセリフに落としこまれていく。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
隻腕隻眼で農村の教師となっていたギルベルトは、自身の存在がヴァイオレットを縛っていると、頑なに彼女を拒む。彼の心は泣いている。ヴァイオレットも彼の本心はわかっている。それでも男のやせ我慢を受け入れることが、「あいしてる」だと理解する。客船のデッキに立つヴァイオレット、見送るギルベルト。クライマックスは予想通りだったけれど、情感たっぷりに描かれたふたりの運命には愛と希望が凝縮されていた。
監督 石立太一
出演 石川由依/浪川大輔/子安武人/木内秀信
ナンバー 158
オススメ度 ★★★★
↓公式サイト↓
http://violet-evergarden.jp/