こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

花束みたいな恋をした

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同じスニーカー、行きそびれたライブ、押井守を知っている。そんな男女が出会ったのは、もはや偶然ではなく運命。物語は、終電を逃したふたりの、共に過ごした4年間を追う。話してみると映画の趣味も読書の嗜好も似ている。共通の話題に事欠かず、盛り上がって時を忘れてしまう。ほどなくお互いの相性は最高と確信する。コクるタイミングの思考回路まで相似している。なにをしていても楽しい。相手がそばにいるだけでときめくとともに安らぐ。特に劇的な出来事があるわけではないが、小さな日常の連続に豊穣を感じる。ただ歩きながらおしゃべりしているだけなのに、ありふれた風景が美しくいとおしくかけがえのないものに思えてくる。映像にちりばめられた等身大のリアル、恋の喜びと切なさ、なによりも繊細な感情が共感を呼ぶ。

始発までの時間を麦のアパートでつぶした絹は、次の約束をして別れる。ふたりは同時に告白して付き合い始め、デートを重ねたのち、絹は実家を出て麦と同棲する。

大学生のうちは世間に背を向けて好きなことに夢中になれる。大人を批判し、芸術を語り、純粋でいるのが特権だと信じている。ところが、大学四年になり就活における面接で現実に直面する。そして卒業。相手だけを見つめているのが許された幸せな季節は過ぎ、嫌でも社会とかかわらなければならなくなる。徐々にすれ違っていく。会話がかみ合わない。いちいち相手の言葉尻が気に障る。ふたりの、追い詰められていく気持ちの変化が、胸を締め付けられるような色調で再現される。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一年足らずのフリーター生活の後、ふたりとも就職する。麦は社会人としての責任に目覚め、絹は麦との距離を感じる。ひとつのベッドで寝ていてもセックスしない夜が続く。恋の賞味期限は切れ、選択を迫られるふたり。若い恋人たちのやりとりに自分たちをトレースするシーンには涙腺がゆるんだ。まさに、’20年代における「恋愛映画のバイブル」と呼ぶべき作品、見る者はあらゆるディテールに自らの体験を重ね合わせるだろう。

監督  土井裕泰
出演  菅田将暉/有村架純/清原果耶/細田佳央太/押井守/オダギリジョー/戸田恵子/岩松了/小林薫
ナンバー  200
オススメ度  ★★★★*


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