こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ドクター・デスの遺産 BLACK FILE

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もう治る見込みはない。苦痛は日々増していく。介護する家族の肉体的金銭的負担も重くなるばかり。そんな時、「人には死ぬ権利が平等にある」というメッセージに出会ったら、つい縋り付いてしまう。物語は、末期症状に苦しむ患者たちを安楽死させる殺人犯を追う刑事の葛藤を追う。患者は感謝して逝った。看取った親族もこれでよかったと信じている。被害者は誰もいない。ところが、自らも難病の娘を抱える刑事は、本当にみな割り切れているのかと疑問を持ち、犯人を殺人鬼と決めつける。ただ機械につながれて維持されている生など、その人の尊厳を奪っているだけ。ならばまだきちんと意識のあるうちに己の意思で死を受け入れたい。そう願う人々の思いを顧みない主人公の暴走する “正義” が目に余り、この作品が問う命の在り方を軽くしてしまった。

子供の通報で葬儀場に駆け付けた刑事・犬養は火葬寸前の遺体を引きずり出し検死解剖する。体内から毒物が発見され、犬養は相棒の高千穂と共にネットで安楽死を請け負うドクター・デスを探す。

他にもドクター・デスが手を下した事件が数件、犬養と高千穂は “被害者” 遺族の事情聴取をするが一様に口が重くドクター・デスをかばっている。やっとドクター・デスの助手を務めた元看護師を見つけるが、彼女もドクター・デスとの関連はカムフラージュされている。誰もが熟考してたどりついた結論、もちろん法的倫理的問題も残ってはいる。それでも「無理やりそう納得させられた」と自分たち親子の経験から強引に自説を当てはめようとする犬養の独善が空回りする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて犬養たちはドクター・デスの似顔絵そっくりの男を逮捕するが、真相はさらに深いところに逃げていく。だが、その後のドクター・デスの反撃や大捕りものも大味で、テーマからどんどん離れていく。犬養の言うように、ドクター・デスは安らかな死に顔を美しいと感じる快楽殺人犯かもしれない。しかし、当事者はその存在を肯定する。そのあたりの矛盾をもっと突き詰めてほしかった。

監督  深川栄洋
出演  綾野剛/北川景子/岡田健史/前野朋哉/青山美郷/石黒賢/木村佳乃
ナンバー  196
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
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