こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

燃ゆる女の肖像

f:id:otello:20201208114658j:plain

モデルを細部まで観察する画家は、いつしか彼女の癖を見抜き心の動きを読めるようになる。モデルの方も絵筆を動かす画家をじっと見つめ、彼女の表情や仕種を脳裏に焼き付けている。女たちには言葉を交わさなくても信頼関係が芽生え、やがてそれは男には感じたことのない思いに昇華されていく。物語は、肖像画家とモデルの至高の愛を描く。まだ女の権利が制約されていた時代、貴族の娘は親の決めた婚約者を断れなかった。画家も父の名を借りなければ自分の作品を発表できなかった。女というだけで思い通りに生きられない、だからこそ束の間の自由を謳歌し心にとどめようとする。相手が目にする当てはない、それでも本の余白のスケッチをずっと宝物にしていると伝える肖像画が、純粋で崇高だが叶わぬ願いの切なさを誘う。

エロイーズの見合い用肖像画を依頼されたマリアンヌは孤島の屋敷に向かう。エロイーズは結婚を嫌がっていて、マリアンヌは散歩友達として彼女に近づき、言語化した記録と記憶をもとに肖像を完成させる。

友情を覚えるまでになったエロイーズとマリアンヌ。ところが、嘘に耐えられなくなったマリアンヌは肖像画をエロイーズに見せる。だがそれはエロイーズという人間の表層をなぞった浅薄な出来栄えで、彼女は気に食わない。自らモデルになると言い出し、マリアンヌの要求に応じてポーズをとる。ふたりの濃密な時間、お互いの満たされない気持ちを理解するうちに、お互いが求めていた魂の片割れと確信するふたり。結ばれないのはわかっている。期限があるから燃え上がり美しい思い出を残そうとする。そんな彼女たちのキスは永遠の輝きを放っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その間、ふたりは望まぬ子を妊娠したメイドの中絶に付き添う。両足を広げ仰向けに寝たメイドが処置を受けている間、まとわりついた赤ちゃんがメイドの鼻を触ったりする。誕生を許されなかった命と生まれたばかりの命が隣り合わせになっている。運命とは己の意思では選べないと暗示する象徴的シーンが素晴らしかった。

監督  セリーヌ・シアマ
出演  ノエミ・メルラン/アデル・エネル/ルアナ・バイラミ/バレリア・ゴリノ
ナンバー  214
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/portrait/