こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

すくってごらん

f:id:otello:20210316104152j:plain

仕事でしくじって東京から田舎町に左遷されたのに、エリートのプライドは捨てきれない。そんな時出会った謎めいた女に彼は心を奪われる。物語は、金魚の産地に赴任してきた銀行員が地元の人々と交流するうちに生きる希望を取り戻していく姿を描く。数字ばかりを追いかけ競争に勝つことに必死だった。大きなプロジェクトを支援し自分の成績を上げることにしか興味がなかった。だが、町の人々はそれぞれの生き方を大切にし人生を楽しんでいる。風来坊のような男の態度に “負け組の屈託ない笑顔” と嫌悪感を示す主人公の選民思想は、世の中を経済的観点からしか見ないビジネスマンの、世界の狭さを象徴していた。なんでも数値化し人の気持ちを計算できない銀行員の心は、金魚すくいくらいでは救われないのだ。

夜、町を歩いていた香芝は金魚柄の着物を着た女・吉乃を見かけ、彼女の後を追う。たどりついた先は、幻想的な店構えのなかで金魚が飼われる金魚屋、香芝は吉乃に金魚すくいのポイを勧められる。

昼間の香芝は仕事に集中することで忸怩たる思いを紛らしている。ところが、本音がつい口に出てしまい、同僚との距離はなかなか埋まらない。営業先の喫茶店の経営改善案を考えたりするなど、一応本店で培ったノウハウを生かしてはいる。一方で吉乃が気になって仕方がない。その間、現状に対する不満や新たな恋の予感など、心に浮かんだ思いを歌にする。一応、ミュージカルという体裁なのだが、歌い出すタイミングや演出が通常の映画話法とは違い、戸惑うとともに新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

圧巻は、金魚ワゴン車を運転する風来坊がピアノを弾いて歌って踊るライブステージ。あまりミュージカルという表現に慣れていない他の出演者を尻目に、目を見張るパフォーマンスを見せる。これぞ歌の力、感情を全身で表現するダンスのすばらしさ。柿沢勇人扮するこの男の飄々とした立ち居振る舞いは、何物にも縛られない自由の風を感じさせ、勝ち負けでしか人生を判断できない香芝の世界観を笑い飛ばしていた。

監督  真壁幸紀
出演  尾上松也/百田夏菜子/柿澤勇人/石田ニコル
ナンバー  42
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://sukuttegoran.com/