こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワン・モア・ライフ!

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死ぬ瞬間、走馬灯のようによみがえるのは美しい思い出。ではなく、フラッシュバックされるのは愛人の何気ない一言だったり客待ちタクシーの順番だったり冷蔵庫の中のライトだったりと、どうでもいいことばかり。人の一生なんて所詮はそんなものという割り切りがコミカルだ。物語は、天国の役人のミスで寿命を延ばしてもらった男が、家族との絆を取り戻そうと奔走する姿を描く。残された時間は92分、その間に妻には「愛している」と告げ、子供たちの信頼を取り戻したい。一刻も無駄にできない。なのに、寄り道ばかりしてなかなか当初の目的が果たせない。ハラハラさせるような演出をせず、主人公もそれほど必死になったりもしない。一応、全力は尽くすけど結果は神のみぞ知る的な割り切りに、肩の力が抜ける。

地上に降りるエレベーターで妻・アガタの元に戻ったパオロは、彼女をうまく言いくるめ夫婦の契りを取り戻す。だが、娘も息子も外出中、きちんと自分の気持ちを伝えるには急がなければならない。

天国の入り口で己の死が信じられず役人に抗議するパオロは、スムージーを飲んでいたのが認められる。このあたり、いくら気を付けていても事故に遭うときは遭うと、行き過ぎた健康志向をあざ笑う。また、息子を迎えに行こうとすると渋滞にはまり、その原因が己の事故だという皮肉がままならない運命を象徴していた。一応娘や息子とも会えるのだが、家庭的ではなかったパオロに対する反応は薄い。むしろウザがられている。残された時間がもう30分もないのに娘とのんきに人生ゲームに興じるあたり、たいしたことを成しえなかった普通の生涯など本人以外に興味はないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その間、パオロはさまざまな女と重ねてきた浮気を思い出したりするのだが、いかに情熱的だったかはさておき、後悔もせず懐かしんだりもせず懺悔もしない。何気ない記憶の断片として思い出すだけ。人生とは小さな出来事の連続、だからこそ “今を精一杯生きろ” などという説教臭さとも無縁なのはかえって心地よかった。

監督  ダニエレ・ルケッティ
出演  ピエルフランチェスコ・ディリベルト/トニー・エドゥアルト/レナート・カルペンティエーリ・Jr./アンジェリカ・アッレルッツォ/フランチェスコ・ジャンマンコ
ナンバー  41
オススメ度  ★★*


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