こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビバリウム

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夢に見た新居は清潔だが画一的な住宅街にある。紹介された家は機能的で洗練された家具で統一され、庭の広さも十分。ふたりの未来を築くには申し分のない環境だ。物語は、小さな町に閉じ込められたカップルが、得体のしれない子供を育てていく過程を描く。赤ちゃんは段ボール箱に入って配達されてきた。成長の速度は異常に速く知能も高い。コミュニケーションは取れるが思考は全く読めない。そんな状況で子育てを強要されたふたりは、いやいやながらも役目を果たしている。まったくの不条理に飲み込まれた彼らの戸惑い、怒り、悲しみ、そして心がむしばまれていく過程がリアルに再現されていた。ほとんど表情を変えない子供時代の “それ” が発散する冷酷な不気味さが背筋を凍らせる。

不動産会社従業員に案内されて郊外の新興住宅地を見学に行ったジェマとトムは、家を内覧中に取り残される。出口はなく、携帯電話も圏外で途方に暮れたまま元の家に戻る。

食料や生活必需品は気づかぬうちに段ボールで届けられる。赤ちゃんはほどなく7歳児くらいの体格になり、ジェマをお母さんと呼び始める。食事が遅れると甲高い声で叫びだすその子供に早々とトムは嫌悪感を示し庭の穴掘りに夢中になるが、ジェマはその子供の世話を続ける。このあたり、仕事を口実に子育てから逃げる男と、母性本能に逆らえない女の違いが明示され、子育ては女に負担がかかるという現実が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

幼稚園教諭のジェマと庭師のトム、高収入ではない彼らは労働者階級、自らは働かない謎の子供は労働搾取する資本家のメタファー。同じことが繰り返されるのは、身分は固定されたまま次世代に継承されるということか。常に清潔な身なりのその子供は管理する側の「力」を象徴していた。

監督  ロルカン・フィネガン
出演  イモージェン・プーツ/ジェシー・アイゼンバーグ/ジョナサン・アリス
ナンバー  43
オススメ度  ★★*


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