こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テスラ エジソンが恐れた天才

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歴史に名を遺した偉大な発明王から金星を挙げた発想力の持ち主。無謀で危険な実験を繰り返すうちに資金に行き詰まった狂気の科学者。後世の評価は様々だが、天才的なひらめきを実用化するための努力を誰よりも惜しまない男だったのは間違いない。物語は、社会に電気を普及させた研究者の数奇な半生を描く。旧世界から米国にやってきた。カリスマを前にしても臆せず自説を曲げなかった。友人の助けを得て出資者の前で慣れないプレゼンもした。エジソン、ウエスティンハウス、JPモルガンといった20世紀米国繁栄の礎を築いたビッグネームを前に、主人公はひたすら己の信じた道を突き進む。常に眉根にしわを寄せ思考を巡らせている姿は、夢を追っているというより得体のしれない何かに追われているようだった。

エジソンの下で働き始めたテスラは電源に交流を主張するが、直流を本命と考えるエジソンと対立、袂を分かつ。その後開かれたシカゴ万博では交流が採用され、テスラは一躍時の人となる。

死刑を確実に成功させるには直流がいいか交流がいいかなどという現代では考えられない論争が19世紀末にはあった。死刑囚も同意して、自ら電気椅子に座る。そして交流で実験された死刑は、死刑囚の即死という結果は得られず、残酷なショーとして新聞に報道される。まあ、世界の夜を明るくするという目標の前で死刑囚の命などは誰も顧みないのだが、そのあたりに当時の人権意識がうかがえる。さらに、映画創世期のスター、サラ・ベルナールと親交を結んだり、ナイアガラに水力発電所を建設したりとテスラの快進撃は続くが、彼が笑顔になることはない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、コロラドの荒野で無線通信の実験にのめりこむあたりから映画は混迷を極め、テスラの行動も支離滅裂になる。理解不能の映像の連続は、テスラの脳内に次々と湧き上がる “斬新ではあるが脈絡のないアイデア” を象徴していた。テスラの人物像を理解しないまま撮影が始まり、彼を演じたイーサン・ホーク仏頂面で通すしかなかったのだろうか。

監督  マイケル・アルメレイダ
出演  イーサン・ホーク/カイル・マクラクラン/イブ・ヒューソン/エボン・モス=バクラック/ジム・ガフィガン
ナンバー  55
オススメ度  ★★


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