こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サイダーのように言葉が湧き上がる

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他人とコミュニケーションをとるのは苦手、でも17音に託せば思いは表現できる。物語は、内向的な俳句好き少年が、歯並びにコンプレックスを持つ少女と交流していくうち大切なものを見つけていく過程を描く。元気のない老人の力になりたい。マスク少女の好意に赤面する。でももうすぐ引っ越してしまうことをなかなか言い出せない。夏がすぐに過行くのが分かっているからこそ、楽しい今が終わるのをできるだけ先延ばしにしようとする。深い対人関係を築かずネット俳句の世界でも孤独だった少年が、周囲の人々とかかわっていくうちに少しずつ成長していく。その速度はとってもスローだが、変わらなければいけないと自覚し行動する姿はけなげだ。歳時記を常に携帯し、句が思い浮かんだらすぐにひも解くアナログなスタイルが渋かった。

ショッピングモールのケアハウスでバイトするチェリーは、女子高生ネットアイドル・スマイルと衝突、互いのスマホを取り違えてしまう。それを機にスマイルはチェリーの俳句に興味を持つ。

誰からも話しかけられないようにヘッドホンで防御し孤高を気取るチェリーは、友達はいるけれど積極的に他人と打ち解けようとはしない。一方のスマイルはライブ配信をするほどアクティブなのに、口元は絶対に見せない。認知症ぎみの藤山が50年前にリリースされたレコードをずっと探し続け、彼らはそれを手伝う羽目になる。その間、スマイルはチェリーの句の最初の理解者になり、距離を縮めていく。スマイルへの気持ちを忍ばせたチェリーの句は、やはり俳句は声に出して詠むからこそ繊細な感情が伝わると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

パステルカラーを強調した画は、耳を覆うチェリーと前歯を隠すスマイルのコンプレックスを裏返したよう。ふたりは世界を変えるような活躍もしないし、過酷な運命に挑んだりもしない。ただただありふれた日常の延長の上に起きる出会いと出来事。大それたことに興味もないし近づいたりもしない。ひと夏の冒険は、劇場で見るにはスケールが小さく感じた。

監督  イシグロキョウヘイ
出演  市川染五郎/杉咲花/潘めぐみ/花江夏樹/山寺宏一/井上喜久子
ナンバー  135
オススメ度  ★★*


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