こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

子供はわかってあげない

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書道家でもある友人の家で見つけたのは、財布に入っているのと同じお札。偶然なのか運命なのか、少女はそれを手掛かりに幼いころに生き別れた実の父を探し始める。物語は、水泳部に所属するアニオタ女子高生が、ひと夏の経験のなかで成長していく姿を追う。探し当てた父は精彩を欠くオッサンになっていた。教祖だと知らされ身構えていたのに拍子抜けするほど普通の人だった。そして始まった海辺の共同生活。円満な家庭、友達思いの友人、ゆる~い部活、人気のない砂浜。もっと劇的な出来事があってもいいはずなのに、ほとんど波風は立たない。にもかかわらず豊かなディテールのおかげで、スクリーンは強烈な引力を放つ。多用される長回しも常に躍動感があり、登場人物の感情が繊細に再現されていた。少女少年が同時に片足飛びするシーンがほほえましい。

美波はアニメキャラの墨絵を描く門司と意気投合、彼の家に遊びに行く。それがきっかけで、実の父が新興宗教の教祖になっていると知る。美波は水泳部の合宿と親に偽り彼に会いに行く。

目の前がさびれた海水浴場という小さな家に父はひとりで住んでいる。門司の兄に案内されて訪問するが、プロローグアニメの建材親子のような愛憎や葛藤に満ちた父娘再会を期待させておいて、あっさり肩透かしくらわす。そこから始まる2人の共同生活は、最初こそ共通の話題もなくぎこちないが、ほどなくお互いを受け入れる。このあたりの間の取り方が絶妙で、スクリーンからにじみ出るほのかなユーモアが心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

美波に連絡がつかなくなったことから、門司は彼女を心配して海辺の家に駆け付ける。そこで待ち受けていたのは意外な光景。肝心な時や大切な思いを口にしようとすると美波は笑ってしまう。でもそれは人生に対して真正面方から立ち向かっている自分に対する照れ隠し。恋が始まる瞬間がみずみずしい。父と美波・門司の距離感は、よく知らない人に対しても必要以上に警戒するのではなく心をオープンにして接すればうまくいくと訴える。

監督  沖田修一
出演  上白石萌歌/細田佳央太/千葉雄大/古舘寛治/ 斉藤由貴/豊川悦司
ナンバー  148
オススメ度  ★★★*


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