こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

燃えよ剣

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百姓が武士を気取っているだけだった。人を木刀や竹刀で殴ったことはあっても斬ったことはなかった。そもそも刀は所有できなかった。物語は武家社会の箍が緩んだ幕末、歴史の表舞台に飛び出した若者の活躍を描く。古い価値観や身分制度はもう通用しない。今こそ社会を根底から変える絶好のチャンス。その波に乗り遅れまいと必死で走り続け、暴力で敵対者を圧倒していく。時に謀略を用いた内ゲバもあった。親友と思っていた男の変節も経験した。だが、おのれの信じる道が否定され、狩る側から狩られる側に落ちぶれても、刀を置くことはない。逃げながらも抵抗を続ける主人公の固い信念。その姿は、生き残るよりもいかに死ぬかを模索しているかのようだった。明かりはろうそくだけ、夜の暗さを実感させる映像は少し見づらい分リアルだった。

江戸近くの農村で武芸を磨いた土方は、同郷の近藤、沖田とともに京に上り、新選組に参加する。芹沢一派を粛清後、近藤が局長、土方は副長に収まり倒幕派への襲撃を繰り返す。

幕府と朝廷の対立を軸に、薩摩長州土佐等様々な勢力が合従連衡を繰り返していた京都の町。新選組内部でも派閥争いが頻発している。新しい考え方はすぐ古くなる。昨日の敵は今日の味方、今日の味方は明日には敵になっているかもしれない。傷の手当てをきっかけに知り合い、愛し合うようになった未亡人の絵師・お雪にすらスパイの容疑がかけられる。そんな状況で土方は先を見据えて先手を打っていく。忠義やら奉公やらといった武士道とは一線を画した、未来を自分の手で切り開いていくという気概が気高く再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

土方はあくまで新選組の職務をまっとうすることに力を注ぎ、どんな世の中を目指すとかいった理想を語ったりはしない。ただただ動乱の時代の先頭を走り、命のやり取りが楽しくて仕方がなかったのだろう。敗走を続けても投降はしない。お雪を道連れにしたりはしない。そんな土方の短い生涯には、「明日に向かって撃て!」に似たカタルシスを覚えた。

監督     原田眞人
出演     岡田准一/柴咲コウ/鈴木亮平/山田涼介/尾上右近/宮部鼎蔵/高嶋政宏/柄本明/市村正親/伊藤英明
ナンバー     187
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
http://moeyoken-movie.com/