こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天外者(てんがらもん)

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もう武士が刀を振り回す時代ではない。これからは貿易でカネを儲け工業を興し自前の軍隊を持たなければ、世界の潮流に乗り遅れ欧米先進国の植民地にされてしまう。物語は、幕末から明治初期にかけて日本の近代化に貢献した実業家の半生を描く。幼少時より一頭秀でていた。自信満々の若者に成長した後も研鑽を怠らず、常に10年先の国の姿を思い浮かべていた。だが反動的思想が幅を利かせ、たびたび刺客に命を狙われた。それでも、己の意思を決して曲げることなく走り続ける。その途中で知己を得た後のヒーローたちとの交流は、新国家建設という壮大な夢を語り合う若者たちの青春群像としても楽しめる。なにより、主人公を演じた三浦春馬の圧倒的な存在感と落ち着いたたたずまいは風格さえまとっていた。

薩摩藩の五代は藩主に命じられて蒸気船の購入に成功、一躍名をあげる。その後、薩摩と英国の紛争で英国海軍の火力を目の当たりにし、捕虜となるも単独で司令官と交渉、英軍を撤退させる。

いきなり英兵のサーベルを奪い司令官ののど元に突き付け要求を実行させる五代。殺されてもおかしくない場面だが、五代と交流のあった遊女・はるの計らいで、英軍は彼を横浜で解放する。だが薩摩藩からは裏切者扱いされ、街道を避け山道や海岸を抜けて長崎まで辿りつく。このあたり、五代がボロボロになった服をまといひたすら歩き続けるのだが、その間どういう苦労があったかは省略されている。その後、武器商人から資金を得て英国に留学、先進的な科学文明とデモクラシーに触れ信念をさらに深めていく。それら五代のエピソードは結果だけが示され、目標をクリアするために彼がどんな努力や創意工夫したかは省かれる。そのあたりをきちんと再現してほしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

明治になり、大阪を東洋一の都市にしようと立ちあがった五代は、街中の実業家・自営業者を集めて商工会の会頭に就任、壮大な演説をする。そこでも、高い理想を訴える言葉ばかりで具体的な方策に欠く。もっと全体的にディテールを突き詰めてほしかった。
監督  田中光敏
出演  三浦春馬/三浦翔平/西川貴教/森永悠希/森川葵/ 蓮佛美沙子
ナンバー  219
オススメ度  ★★*


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