こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゴヤの名画と優しい泥棒

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高等教育は受けていないが、自由と民主主義については一家言ある。社会のルールに馴染んでいないのは自覚しているが、不平等や差別は見逃せない。物語は、公共放送受信料支払いを拒否する男が、高名な絵画を担保に老人たちの受信料無料化を訴える顛末を追う。本人は劇作家気取りで、戯曲を仕上げては売り込みに行くがどこにも相手にされない。家計を支える妻は働き者だが口うるさい。娘を失くした傷はまだ癒えないが、やさしい息子はよき相談相手になってくれる。不満ばかりを口にしながらも、他人の意見に流されず信念を貫く頑固爺をジム・ブロードベントが外連味たっぷりに演じコミカルな雰囲気を醸し出す。街頭に立って己の主張を話す姿はまさに言論の自由を保障された英国ならではの光景だ。受信料不払いでも服役するのには驚いた。

美術館に展示してあった公爵の肖像画を、自宅クローゼットに隠したキンプトンと息子のジャッキー。マスコミに犯行声明を出すが無視される。ある日、兄の恋人が絵に気づく。

タクシー運転手やパン工場など、カネを稼ぐための仕事は何をやっても長続きしない。喪失感を抱えながら執筆する戯曲は陳腐な出来栄え。それでも、決して省みずトラブルの種をまいては妻のドロシーに迷惑をかけている。現代なら完全に周囲から見放されて孤独な老後を送っているようなキンプトンだが、1960年代の英国にはまだ社会にも家庭にもそんな厄介者の面倒を引き受ける余裕があったのだろう。周囲の人々は彼を異質なものとして排除せず、むしろその「空気読まない」生き方に敬意すら抱いているかのよう。キンプトンの手紙のプロファイリング結果が的を射ていて笑えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

肖像画を盗んだ罪を問われ裁判を受けるキンプトンは、そこでも彼一流のロジックで検察官や判事を煙に巻く。決してふざけているわけではないが相手の言葉尻をとらえては皮肉たっぷりの答えを返す。メタファーとエスプリを効かせた持って回った法廷問答は、英国人ならではのスノッブさとユーモアに満ちていた。

監督     ロジャー・ミッシェル
出演     ジム・ブロードベント/ヘレン・ミレン/フィオン・ホワイトヘッド/アンナ・マックスウェル・マーティン/マシュー・グード
ナンバー     41
オススメ度     ★★★*


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