小さな空港からクルマでドライブしフェリーに乗る。カーナビがないとたどりつけない孤島の小さな村は、あの巨匠が愛してやまない場所だった。豊かな日差しに恵まれた緑豊かな土地と遠浅の美しいビーチ。過ごしやすい夏の気候は、逆に冬の陰鬱な厳しさを想起させる。物語は、新作の構想を練るためにこの地を訪れた映画作家夫婦が、インスピレーションをなかなか得られず苦悩する姿を描く。夫は新作のキャンペーンという気楽な立場、まだアイデアをメモする程度で接待や観光を楽しんでいる。妻は本格的に脚本を書き始めるがなかなかいい結末が思い浮かばずいら立ちを隠さない。だが、ゆかりの地を巡ることで徐々に骨格に肉付けされていく。ベルイマンとは、ある程度ベテランのクリエーターにとっていまだに直感の泉たる存在なのだろうか。
ベルイマンの家に滞在するトニーとクリス。トニーが観光ツアーに出ている間、クリスは地元の映画学生にガイドブックにない穴場を案内してもらい、創作意欲に火が付く。
戻ってきたトニーに、クリスは思いついたプロットを話す。十代のころに熱烈な恋に落ちたけれど別れてしまったカップルが十数年後に共通の友人の結婚式で偶然同席し、かつての情熱を取り戻す。付き合っていたころそのままに逢瀬を重ねるが、男は期間限定と割り切っているが女は運命だと信じている。余裕のある男に対して、必死にしがみつこうとする女。彼女の思いが強くなるほど、彼の気持ちは冷めていく。ある意味、トニーとクリスの関係が投影されたふたりの寓話は、男女間のパワーバランスは若い時ほど女が優位で、成熟するにしたがって男が逆転するという真実を衝く。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ただ、再会カップルのエピソードを長々と映像化したのは、トニーとクリスの葛藤だけでは話が持たないからに思える。現実は、映画のように劇的な事件が次々と起こるわけではない。クリスの想像力が産んだ恋愛が感情的なリアリティを持つほど、映画作りは地味で忍耐の必要な作業の連続であると訴えているようだった。
監督 ミア・ハンセン=ラブ
出演 ビッキー・クリープス/ティム・ロス/ミア・ワシコウスカ/アンデルシュ・ダニエルセン・リー
ナンバー 76
オススメ度 ★★*
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https://bergman-island.jp/