こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

東京2020オリンピック SIDE:A

IOC会長と大会組織委員会会長、五輪が動かす巨額マネーを差配する老人たちは笑顔を絶やさない。彼らの取り巻きも愛想笑いに終始し、転がり込む利権にほくそ笑む。そんな想像をしたくなるプロローグが金権五輪を象徴していた。カメラは、後世に語り継がれるであろう “失敗五輪” を独自の視点で切り取る。当初の約3倍に膨れ上がった開催費用に反対派の意気は高い。追い打ちをかけるかのようにコロナ禍での1年延期。とりあえず無観客の国立競技場で天皇による開会宣言はなされた。厳しい行動制限で感染が広がることもなく大会は進行する。映画は、競技の記録そのものには興味を示さず、難民枠出場選手や帰化選手、改革を訴え実行に移す選手たちにスポットを当て、2021年夏の喧騒はいったい何だったのかを検証する。上映館もほぼ無観客だったのには苦笑したが。

1964年大会でオランダ人選手に金メダルを奪われたのが、日本柔道の原点という柔道界の重鎮。シリアのトライアスロン選手は亡命後新国籍を取れず “難民枠” で出場するという。

まだ “鎖国” 状態だった日本に、家族を同伴させる女子選手がいる。乳児を抱えていて母乳を与えなければならないという理由で、夫と赤ちゃんを厳しい行動制限をしている日本に滞在させている。もちろん選手と母を両立させるのはよいことだが、この費用はいったいだれが負担しているのだろうか。またスケボーやサーフィンなど、既成の価値観を疑い拘束を嫌う若者たちが自由に演技する競技は、やっぱり五輪には向かないと思う。金メダルなどという物は彼らが最も嫌う権威のはずだが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

それでも、柔道の大野だけは「アスリートやスポーツ選手ではなく柔道家になりたい」と断言する。気を緩めるのは優勝の瞬間だけでいい。己の肉体と精神を鍛えぬいてさらなる高みを目指す。まるで修行僧のようなストイックな生き方は「オリンピックの雰囲気を楽しむ」と言わなければダサいという風潮のなかでひときわ異彩を放っていた。大野のようなタイプはもはや絶滅危惧種なのだろうか。

監督     河瀬直美
出演     
ナンバー     106
オススメ度     ★★


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