こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ALIVEHOON アライブフーン

右に曲がる時は左にハンドルを切り、左に曲がる時は右にハンドルを切る。後輪はハンドブレーキでロックして横滑りさせ、コーナーを出る寸前でアクセルを踏み込む。物語は、実車でのドリフトレースに挑戦するゲームチャンピオンの活躍を描く。モニター上に再現された難路でのドライブテクニックでは誰にも負けない。だが、本物のクルマは曲がる時も加速するときも強力な重力がかかり肉体に大きな負担をもたらす。ところが主人公は一度体験すると重力を克服し、操作のコツも難なく体得し、一度走ったコースだけでなく、未知のコースでもあっさりと自分の技術を再現していく天才。1対1の勝負、2台のレースカーが20センチほどの距離を保ったまま高速ドリフトで並走するシーンは、カーレースを芸術の域にまで昇華させていた。

負傷した武藤の代わりにドライバーとなった紘一は猛特訓を受けて新人戦に臨むが、柴崎との駆け引きに負ける。しかし、彼の才能は評価され日本一を決めるドリフェスへの参加が認められる。

ゲームの世界にどっぷりと浸っていた紘一は感情表現が苦手で他人とのコミュニケーションがうまく取れない。チームオーナーの武藤はゲーマーへの偏見を隠さない。整備士の夏美が取り持ち、なんとか衝突を防いでいる。ライバルの柴崎も鼻持ちならない性格。およそ社会性のない人々が非常識なふるまいを繰り返すのには鼻白んだが、むしろ人間ドラマの部分を切り捨て、ドリフトのテクニックを見せることに重点を置いたところに好感が持てた。スピードやジャンプや大掛かりな破壊ばかりの大味な米国のカーアクションとはまったく趣向が違い、ち密な計算と操作がものを言う世界は驚きに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ドリフェスにエントリーした紘一は次々と強豪に打ち勝ち、柴崎との再戦に臨む。挫折らしい挫折もなく階段を駆け上っていく紘一は、現代の若者の “嫌な思いをしたくない症候群” を象徴していた。返事もまともにできなかった紘一がきちんと武藤に挨拶するほどに成長したのは微笑ましかった。

監督     下山天
出演     野村周平/吉川愛/青柳翔/福山翔大/本田博太郎/モロ師岡/土屋アンナ/陣内孝則
ナンバー     108
オススメ度     ★★★


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