こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

千夜、一夜

夫はフラッと出かけたまま帰ってこなかった。連絡はない。消息も分からない。警察はあまり協力してくれない。自力での捜索は限界がある。物語は、失踪した夫を30年待ち続ける妻の元を、2年前に夫が蒸発した看護師が訪ね、「待つ」苦悩を分かち合う姿を追う。もう50代になった妻は夫が死んでいると気づいている。だからこそ余計に意地を張り、言い寄ってくる男を頑なに拒絶する。看護師にも好意を寄せてくれる男がいて、妊娠のチャンスがあるうちに決着をつけたいと思っている。同じ境遇ゆえに最初のうちは共感し同情し助け合っていた2人の間に、人生の残り時間をめぐる解釈の違いで次第に溝ができていく過程が緊迫感にあふれていた。女にとって出産リミットがいかに大切なものなのかが、切実な感情を伴って描かれていた。

夫が漁師だった登美子と、夫が教師だった奈美。登美子は奈美の夫捜しを手伝うが、ある日、海岸に漂着した小舟に乗っていた朝鮮人に登美子は自分の夫の話を聞きに行く。

地元のイカ加工場で働いている登美子は、まだ離婚するつもりはない。時折夫との会話を録音したテープを聞いては過去の思い出に浸っている。いつか帰ってくると信じていた。でももう希望はない。夜、寝室で誰もいない空間に向かって夫に話しかけるように独り言を言い続ける登美子の背中は、時間が止まってしまった人生を生きる彼女の、現実逃避なしでは耐えられないつらさが凝縮されていた。一方の奈美は同僚看護師からのプロポーズを受け入れ、登美子の調査結果を「夫の不在証明」として使おうとする。それをいきなり第三者の前で言い出すのは、登美子に対する気遣いが著しく欠けている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

義母の葬儀の帰り、登美子は奈美の夫を見つける。奈美の気持ちを話し、夫が奈美に会いに行くように仕向ける。恋人と同棲を始めていた奈美は突然現れた夫に対し平常心ではいられない。そのあたりの登美子の意趣返しは、同志だとすぐに仲良くなれるがわずかな齟齬で壊れてしまう女の友情がリアルに再現されていた。

監督     久保田直
出演     田中裕子/尾野真千子/安藤政信/白石加代子/山中崇/田中要次/平泉成/小倉久寛/ダンカン
ナンバー     193
オススメ度     ★★★


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