こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天間荘の三姉妹

 

見晴らしのいい高台に建つ海辺の町の高級旅館。客はみな訳アリで、魂を癒したのちにある選択するという。物語は、知らぬ間に旅館に連れてこられた娘が、この町と家族に変化をもたらす過程を描く。旅館の女将は彼女の異母姉、イルカトレーナーの異母姉もいる。今まで存在すら知らなかったのに、彼女たちは妹として迎えてくれる。大酒のみの大女将は、態度は悪いけれど鋭い言葉で物事の本質を突く。のどかで居心地のいい空間、まるで時間が止まったような旅館で働き、町の人々と交流するうちに、娘は他人の思いを受け止める心遣いを学んでいく。人はひとりでは生きていけない、でも別れは必ずやってくる。もう会えない人にきちんと感謝の気持ちを伝える大切さをこの作品は教えてくれる。違和感もどんでん返しもない。感情が染み出すような映像が深い感慨をもたらす。

なぜ天間荘に来たか理解できないたまえは、のぞみとかなえの姉たちに迎えられ、とりあえず仲居として働き始める。まずは気難しい老婆・財前の担当となり、彼女を観光名所に案内する。

現世での財前は波乱の人生を送り今は意識を失ったまま入院している。だが天間荘では、緑内障で失明した目は視力を取り戻している。美しい景色だけではない、人の顔や料理のいろどりまで知覚できる。わがままも聞いてくれる。財前にとってとても居心地のいい場所、それでもチェックアウトの日は迫ってくる。魂が現実を受け入れるまでの間、ほんの少しの猶予が与えられれば、死は恐ろしいものではなくなると財前の決断は訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

旅館にいる家族も町の人々も、愛する人に伝えられなかった言葉を抱えたまま日々を送っている。なにげない日常、でも進歩も後退もなく、悲しさや孤独に襲われることもない。突然引き裂かれここに来てしまったけれど、生き残った人たちをずっと見守っている。だから自分たちのことも忘れないでほしい。肉体はなくなっても、人は他人の記憶の中で生き続ける、そして思い出こそがその人が生きた証だとこの作品は訴える。

監督     北村龍平
出演     のん/門脇麦/大島優子/高良健吾/山谷花純/柳葉敏郎/中村雅俊/三田佳子/永瀬正敏/寺島しのぶ/柴咲コウ
ナンバー     172
オススメ度     ★★★*


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