自分たちだけが特別だと思っていた。世界に冠たる価値観を持っていると信じていた。だが、それは思い込みにすぎず、むしろ存在意義を問われ始めている。物語は、超文明を支える物質を持つ山奥の王国と、その国に安全を脅かされた海底王国の戦争を描く。同じ物質は海底にもあった。彼らは独自の進化を遂げ、人類の影響をうけないようにひっそりと暮らしていた。なのに、未熟な若者が彼らの平和を乱してしまった。責任を取らなければならない。一方で同胞を守らなければならない。相手の要求は正当なのに感情は敵対行為として反応してしまう。そして滲み出すエゴ。「黒人で女」というマイノリティの象徴のようなヒロインが怒りに理性を失っていく過程は、ポリコレ的な正義がいかに薄くてもろいものであるかを教えてくれる。
米国の探査船が海底のヴィブラニウムを発見するが、ネイモア率いるタロカン人によって撃退される。ネイモアはワガンダ側に探査機を作った天才技術者・リリの引き渡しを要求する。
王女・シュリと戦士・オコエがリリを保護するが、ネイモアたちの襲撃を受ける。我こそが最強だと思っていたのに歯が立たない、オコエの失望が印象的だ。クジラやシャチの尾びれを利用してジャンプしたり、催眠音楽で敵を操ったりするタロカン人の闘い方が非常に洗練されていた。そして捕虜となったシュリをネイモアが案内するタロカンの海底都市は、非常に幻想的。水中の浮遊感は母の胎内にいるときのような安心感を人々に与えるのだろう。彼らの安寧を侵しながら優位を保とうとするワガンダ人よりも、むしろタロカン人に共感してしまう。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ネイモアによる警告を兼ねた先制攻撃でワガンダは女王を失い、シュリがその地位を継ぐとともにブラックパンサーの称号とバトルスーツも得る。リリや側近の戦士たちもパワードスーツに身を包み女王の弔い合戦に挑む。シュリの心を占めているのは先代女王の復讐。飛び道具に頼らず素朴な武器だけで応戦するタロカン人の戦士たちはあくまでも美しかった。
監督 ライアン・クーグラー
出演 レティーシャ・ライト/ルピタ・ニョンゴ/ダナイ・グリラ/ウィンストン・デューク/ドミニク・ソーン/フローレンス・カスンバ/ミカエラ・コール/テノッチ・ウエルタ/マーティン・フリーマン/アンジェラ・バセット
ナンバー 211
オススメ度 ★★★★