こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

コンパートメント No.6

酒を飲みタバコを吸う。酔っぱらって下品な言葉で絡んでくる。おまけに目的地まで一緒。ただでさえ落ち込んだままの一人旅なのに、こんな男と同室とは。物語は、寝台列車のコンパートメントで鉱山労働者と同席した女の心の彷徨を描く。恋人と行くはずだったのにドタキャンされ落ち込んでいるのに、粗野な男と狭い寝室で数日一緒に過ごさなければならない。なんの因果でこんな男と、と思った。すぐに部屋を変えてもらおうとした。それでも少しずつ相手のことを知るうちに、第一印象の悪さが緩和されていく。人は見かけによらない。話して初めて理解できる事情もある。袖振り合うも他生の縁、旅の醍醐味とは目的地にたどり着くことではなく、その道中における一期一会にあるとこの作品は教えてくれる。

ロシア北岸にある遺跡・ペトログリフを見に行くために列車に乗ったラウラ。同室者は丸坊主頭でいかにも粗野な外見のリョーハだった。ラウラは一目でリョーハに嫌悪感を抱く。

まだ携帯電話がなかった時代、ラウラは停車するたびに駅前で公衆電話を探しレズ恋人に連絡する。だが、恋人に迷惑そうにあしらわれると、素面の時に会話するようになったリョーハと過ごす。一晩停車する場合もあるのか、リョーハが手に入れたクルマで外出したりもする。このあたり、広大な大陸を鉄道で移動する人々の先を急がないおおおらかさが感じられて非常に新鮮だ。そして狭い空間で時間を共にすると、必然的に心理的距離が縮まっていく。リョーハに好感を抱くようになっていくラウラの変化は、いつしか彼女の傷心旅行を癒しと再生の旅に変えていく。その過程は押しつけがましい感情表現が一切なく、非常に好感が持てた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

目的地に着き、ペトログリフに向かおうとするが、冬は交通手段がないと断られるラウラ。そんなラウラのために一肌脱ぐリョーハ。他人との距離感を知らなかったのは、ただ高等教育を受けなかった彼の生い立ちによるもの。人情に篤い男だと明らかになる場面はラウラでなくても笑顔になる。

監督     ユホ・クオスマネン
出演     セイディ・ハーラ/ユーリー・ボリソフ/ディナーラ・ドルカーロワ/ユリア・アウグ
ナンバー     28
オススメ度     ★★★


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