こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

対峙

テーブルを囲んで4人の男女が座っている。挨拶を済ました後は言葉が続かない。気まずい空気。ぎこちない会話。言いたいことは喉元まで出かかっているのに、なかなか吐き出すきっかけがつかめない。物語は、高校生銃乱射事件でわが子を喪った2組の夫婦が事件の真実を求めて語り合う過程を描く。自分たちが慈しみ育てた息子がなぜ命を失わなければならなかったのか。加害者はなぜ爆弾を仕掛け引き金を引いたのか。そこに至るまでに前兆はなかったのか。見逃したのではなく、見て見ぬフリをしていたのではないか。様々な疑問が彼らの胸の奥深くに眠っていた記憶を呼び覚まし、意味付けがなされていく。そしてきちんと検証を加えて理解することで忌まわしい出来事が整理されていく。過去は変えられないが、その感じ方は変えられるのだ。

町はずれの教会にジェイ、ゲイル夫婦とリチャード、リンダ夫妻が集まる。静かな一室に通された彼らは、4人だけで亡くなった息子たちの思い出を語り始める。

この集まりをコーディネートする女が、教会を管理する女にいちいち細かい注文を付ける。ピアノや聖歌隊の練習の雑音、飲食物の手配、果てはティッシュボックスの置き場所まで配慮を求めるのだ。一体何にそれほど神経質になっているのか最初はわからない。むしろコーディネーターの態度が、これから始まる会話劇の前振りの役割をはたしていて、必然的に緊張感を盛り上げる。それは強烈な喪失感と死者への畏敬に満ち、この作品に真摯に向き合うことを観客にも求めているようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてリチャードたちの息子が事件の犯人で、ジェイたちの息子は被害者のうちの1人だと明らかになっていく。時間が冷静さをもたらし、お互いの立場は対等。それでも加害者の親としての責任があるリチャードとリンダ。取り調べ調書で何度も確認したはずなのに、ジェイとゲイルは繰り返し問い質す。時に感情的になるが、あくまで理性的に話す姿勢は、対話こそ怒りや憎しみ和らげる最善の方策であると教えてくれる。

監督     フラン・クランツ
出演     リード・バーニー/アン・ダウド/ジェイソン・アイザックス/マーサ・プリンプトン/ミッシェル・N・カーター/ブリーダ・ウール/ケージェン・オブライト
ナンバー     27
オススメ度     ★★★


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