ふと脳裏をよぎるのは父と過ごした夏の記憶。たった数日だったけれど、子供時代の終わりを告げられたような気がした。人生のすべてが凝縮された濃密な日々は、残されたビデオテープと共にいつまでたっても色あせない。物語は、離れて暮らす父娘が小さなリゾート地で思い出作りに励む姿を描く。水着になったときは丁寧に日焼け止めを塗ってくれる。様々なアクティビティにも連れて行ってくれる。夜のバーで少し大人の世界を垣間見せてくれたりもする。一日中楽しめるようにいろいろと気を使ってくれる。なのに、どこか寂しそう。そんなパパをずっと観察していたけれど、その当時は理由がよくわからなかった。でも、大人になった今なら見当がつく。ビデオに残された記録と自分の記憶の違いに翻弄されるヒロインの感情が切なかった。
ビーチ沿いのホテルにチェックインしたカラムとソフィ父娘は休暇を満喫する。ホテルのプールで戯れ、ゲームセンターで遊び、食事を味わうが、カラムはソフィに隠し事があるようだった。
特別な出来事はない。まだ11歳のソフィには恋は早く、せいぜいゲーセンで知り合った同世代の男の子や一緒にビリヤードした大学生くらいの若者に相手をしてもらうくらい。ちょっと背伸びしてみたい年ごろなのにカラムを心配させないように自制している。一方のカラムはソフィとの行動を1分1秒まで大切にし、ソフィにとって意味のある時間に昇華させようとしている。おそらくこれが父娘水入らずの、最初で最後の旅なのだろう。その先に待つカラムの運命は暗示されるだけだが、ふたりにとって永遠の別れが近づいている寂寥感が映像から滲み出していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ただ、ソフィが冒険するわけでもなく、カラムの抱える苦悩や秘密が明らかになるわけでもなく、全体的にヤマもオチもない平板な構成はあくびを禁じえない。共感できるエピソードのひとつもあれば退屈は避けられたのだが、抑制が効いているというよりは語るべきことの薄っぺらさをごまかしているように感じられた。
監督 シャーロット・ウェルズ
出演 ポール・メスカル/フランキー・コリオ/セリア・ローソン=ホール
ナンバー 100
オススメ度 ★★