こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて

タコ焼きを食べると大阪弁が伝染する。甲子園の土を嗅いでも大阪弁が口から出る。全国に粉もんを浸透させ、日本中を大阪化する。物語は、埼玉に作るビーチの砂を求めて和歌山にやってきた男が、近畿地方にはびこる地域差別と闘う姿を描く。関東とは違い、京阪神間の癒着と確執は愛憎一体で歴史が古い。特に洛中以外は京都と認めず我々こそが日本の中心と信じて疑わない都人のいけずな本質がデフォルメされていて、思わず笑ってしまった。ほかにもウンパルンパ風ダンスや集団催眠風舞踊などディテールまで作りこまれた映像は、この作品をギャグコメディから崇高なアートに昇華していた。甲子園の地下に放置された掛布・真弓等の1985年日本一メンバーや清原・松坂といった高校野球のレジェンドのネームプレートが懐かしさを掻き立てる。

和歌山の白浜に漂着した麗は、そこが大阪の植民地になっていることにショックを受ける。滋賀県人の桔梗と出会い、近畿地方を支配する大阪の横暴を止めるために反乱を起こす。

大阪府京都市は同格の同盟関係、神戸と芦屋はその端っこにおいてもらっているという構図。甲子園は完全に大阪府知事支配下にあるが、西宮の人はどう感じるのだろう。京都洛中からほんの数キロしか離れていないのに琵琶湖瀬田は未開地の扱いを受けている。そのあたり、都市部に生まれ育った人々のプライドとその縁辺で暮らす人々の卑屈さは、実は東京と埼玉の関係以上に複雑にねじ曲がって本音の部分に染み付いていると、登場人物の言動は見事に喝破していた。やっぱり産地偽装はよくない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

桔梗は琵琶湖の水を止め、麗は甲子園に監禁されていた仲間を解放し、大阪府知事との最終決戦に臨む。その際も、大阪都構想に敗れた悔しさと万博開幕の危ぶまれる焦燥感がシンクロした上、大阪府民のひねくれた熱意と執念がスクリーンに充満し、いやが上でもテンションが上がる。埼玉県民ですら知らない秘密兵器で府知事の陰謀を食い止めようとするクライマックスには手に汗を握った。

監督     武内英樹
出演     GACKT/二階堂ふみ/杏/加藤諒/益若つばさ/堀田真由/くっきー!/朝日奈央/天童よしみ/山村紅葉/川崎麻世/藤原紀香/片岡愛之助/和久井映見
ナンバー     213
オススメ度     ★★★★


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