こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シャクラ

ひらりと宙を舞い軽やかに屋根の上を走る。十数人相手の力比べで一歩も退かず、掌から発する闘気で敵を圧倒する。素手の格闘だけでなく、剣から槍、弓矢、吹き鍼などの武器から身の回り小道具を使ったアクションは、めくるめく展開で瞬きするのを忘れるくらい。物語は宋代の中国、組織への裏切りと両親殺しの濡れ衣を着せられた男が潔白を証明するために奮闘する姿を描く。国が乱れている。周辺の夷胡が跳梁跋扈している。力のない者は虐げられ次々と命を落としていく世の中で、主人公は平和を守るために武装集団を率いている。だが、リーダーの座を追われ周囲がみな自分の命を狙う状況になった今、逃げ回ってばかりではいられない。苦楽を共にした仲間と酌み交わす縁切り酒が、義に生きた熱い思いと義を捨てなければ生き残れない男たちの哀しみを象徴していた。

幇会の頭目・喬峯はあらぬ疑いをかけられ、契丹人という秘密まで暴かれて追放される。その後、少林寺で不始末を犯し重傷を負った阿朱を助けた喬峯は一緒に逃げ、治療のために薛神医を訪ねる。

お尋ね者になった喬峯は、阿朱の手当てのためにかつての仲間や部下と闘わなければならない。その数30人以上、いずれも腕に覚えのある豪傑ばかり。大机を囲んだ集会に乗り込み単身大暴れする前半の見せ場は、まさにドニー・イェンの独断場だ。その、ワイヤーや空中回転等、香港映画が培ったあらゆるテクニックと最新のCG合成で再現された武闘と愛憎・義理人情は、伝統的な武侠モノに徹していて痛快。なにより言語も含め中共的な臭みがなく心地よかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

陰謀の裏では、燕の復興を図る勢力や喬峯の実の両親が殺害された因縁などが絡み、中世中国史を理解していないと人間関係がわかりづらい。宋人に育てられた喬峯が中原を荒らしまわった異民族の血を引いているといっても、その出自だけで差別弾圧されるシーンには、中華至上主義を強固にしようとする北京政府に苦しめられる少数民族・外国人の哀しみと怒りが深く投影されていた。

監督     ドニー・イェン
出演     ドニー・イェン/チェン・ユーチー/リウ・ヤースー/ウー・ユエ/チョン・シウファイ
ナンバー     187
オススメ度     ★★★*


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